1 魔法の国に連れていってあげる

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 電話を切ろうとしたら、静香の声が寸前で入ってきた。 『明日香、あのさ……』 「何?」 『一人で来て。お母さんは連れてこないで』  え、と明日香は思わず声を漏らした。もともと自分だけで行くつもりだったが、どうしてお母さんが行ってはいけないのか? 「何で?」 『それと、体操服じゃなくて制服で来てね』 「え?」 『よろしくね』  そこで通話が切れた。明日香の質問は完全無視である。明日香は、さっきのは一体何だったのか、としばらく突っ立っていたが、そんなことをしている場合ではないと慌てて階下に降りた。 「明日香、静香何て言ってた?」  朝美がのんびりと明日香に聞く。明日香は体操服から制服に急いで着替え、「お姉ちゃんに忘れ物届けに行ってくるね!」と言った。どうして制服じゃないといけないか分からないけれど、指示通り着替える。胸元と肘の辺りに白と水色の縞が入っているこの紺色基調のジャージ、お気に入りなのに。 「忘れ物? え、今から届けるの? 車出した方がいい?」 「大丈夫! 私が自転車で行くから」  静香の言葉を思い出しながら明日香はそう言うと、袋にテキストを入れ、ヘルメットと自転車の鍵を持って玄関へ走った。 「全く静香は……。忘れ物なんて、珍しいことするのね。明日香、気を付けてね。すぐ帰ってくるのよ」  朝美の声が後ろから飛んできた。明日香はその声を聞くと「行ってきまーす!」と声を張り上げて扉を開けた。
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