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「いや」
冷静に返した右近に、中山はニヤニヤと笑って聞いてくる。
「お前がほっとかねーだろ。あんな美味しそうな女」
「どうかな」
曖昧に返して、内心では自己顕示欲が満たされていくのを感じていた。
あの可愛い子と俺は寝た。
そんな優越感があるのは否めなかった。
雨足が強くなっていくのが、二人の会話を邪魔する音で分かる。
「…降ってきたな」
誤魔化しながら赤の絵の具を何種類も出すと、左野香が入ってきた。
「よろしくお願いします」
前回と同じ、左向きで手を顎に当てるポーズ。
肩から腰、腰から脚への曲線が艶かしい。
自分はあの中身を知っている。
どんな味なのかさえも。
「ふふっ」
何故か笑いが漏れた。隣の中山だけが、笑いに気づいていたようだ。
赤の中に赤を重ねていく。透き通るような白と青、透明感しかない肌と赤は絶妙に不気味さを生んでいく。
ふと、左野香が自分に視線を流しているのが分かる。
熱く見つめられて、左野香が焦れているのが分かる。
女の情欲を感じて、また右近は清々しく感じる。
ザーザーと雨の音が、耳についた。
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