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右近
初夏の香りがするのは、木が生い茂った大学のキャンパスにいることが多い。
斉藤右近は、この大学で油絵を学んでいる。
一般の人間が臭いと感じる絵の具の匂いも、右近にとっては興奮する材料の一つである。
写実的に描くだけでなく、彼はモデルの内面を映そうと奮闘する。その情熱が、教授にも伝わるのか評判はすこぶる良かった。
今日のモデルは新規の女性で、若い子だという。いつもは大抵三十を越えた女性が多いので、男子学生は皆少し浮き足立っているように見えた。
イーゼルを立て、いつものデッサン部屋で右近は道具を並べていく。
絵の具であちこち染まったツナギの服で、生徒たちはモデルを待っていた。
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