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声をかけたものの、何も考えていなかった私は急いで視線を巡らせて話題を探す。そこで、手に取った本にふと視線を落として「あ、あの、これ、店員さんのオススメ、なんですか?」と言葉をつまづかせながら本を持ち上げ尋ねた。
途端に、店員さんの顔がパアっと輝いた。
去ろうとした際に暗かった表情から変化した明るい表情に、心がふわりと揺らいだ。久しぶりの感情に私が戸惑っていると「はい、オススメです。心がね、すごく動かされるんですよ」とそう言って、どんな部分が面白いか、注目する点はどこか、オススメのページなどを教えてくれた。
とてもわかりやすい説明に私は聞き入り、手の中の本が本棚に埋もれた中の1つから、魅力的な1冊へと変わっていった。
「わぁ……! ありがとうございます、買って、早速読んでみますね」
話を聞くだけで本の印象がすっかり変わってしまった私は、嬉しくなって購入前のそれをぎゅぅっと抱きしめた。
「はい、ぜひ。同じ物語を好きな人が増えてくれたら、私も嬉しいです」
店員さんは爽やかに笑うと「あ、よければレジ対応しましょうか?」と尋ねてきた。私は「よろしくお願いします」と本を手渡しながら、目の前の年下の青年を上から下まで少しじっくりめに見つめた。
”好きな人”
特別な響きに感じた、言葉。
単純に、共有する人が増えて嬉しかったための言葉だろうに、まるで、一目惚れをして自分に向かって言われたような錯覚を感じてしまった。
刺激を求めすぎて、脳が溶けてしまったのだろうか?
――持ってはいけない、感情だろうに
だけど、持ってはいけない、と思うからこそ、この思いに沈んで溶けて、浸りたいのかもしれない。
表に出さないからこそ、幸せに満たされるのかもしれない。
――例え、私が殺人者でも――
「端下さん」
「はい?」
「あ、いえ……名前を、覚えよう、と思って。読んだら、感想を……聞いて、もらおうかな、と」
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