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俺は伊織との約束を思い出してはふらふらと立ち上がり、今日はもう帰る、と宣言する。
「ほら、さっさと片付けるぞぉ。とりあえず全部キッチンに持って行けばいいか？」
「えー、先輩もう帰るんですかぁ？まだ飲みましょうよー。あ、日本酒ありますよ？」
「いや、俺も眠いし……また今度なぁ」
まだ飲むとうるさい後輩を無視しながらぐだぐだと後片付けをし、俺は篠崎がベッドにダイブしたのを見届けてから部屋を後にする。そしてすぐ隣りの部屋のチャイムを鳴らし、中から開けてもらうのを待った。
「伊織ー、帰ったよぉ」
「はいはい。今何時だと思ってんですか。近所迷惑……って、酒くさっ。どんだけ飲んだの？」
「えへへ♪たーだいまぁ！」
玄関の扉を開けて現れた恋人に、俺は遠慮なく抱き付く。足がおぼつかないというのもあったが、気持ち良く酔ってるから伊織に甘えたい気分でもあったのだ。
俺を抱き止めた彼は盛大なため息を吐き、仕方ないなぁと俺の身体を支えては家の中に上がる。
「晴弘さん、風呂行きますよ、風呂」
「えー、めんどくさぁい」
「面倒くさいじゃなくて……マジで酒くさいからな、今のアンタ」
「むぅ……伊織も一緒に風呂入る？」
「俺はもう入ったから、アンタの事洗ってあげるよ。１人で行かせたら絶対転ぶし」
「はぁ？俺は子供じゃないっつーの！」
「うるさっ。耳元で叫ぶな。子供じゃないなら大人しくしてて下さいよ」
あれよあれよと言う間に裸にされ、伊織も服が濡れるからと一応全部脱いでから一緒に風呂場へと入った。ここには座るようなイスも無いので、タイル壁に両手を着かされては泡まみれで全身を洗われて、最後に浴槽に浸からされては頭を洗ってくれる。
俺はその気持ち良さにだらけては、シャンプーが目に入らないよう閉眼して口だけを動かしていた。
「ぅあー……気持ちいいー……サイコーです伊織さん」
「……それは良かったですね、まったく」
「床屋のおっちゃんより気持ちいいし……本当に……もう毎日伊織に洗ってもらいたい」
「……………」
「あー眠い……気持ちぃし……伊織の手って本当に優しいよなぁ……すげぇ好き」
「……………」
「お前の手ってマジで魔法の手だよなぁ……料理も出来るし、器用だし、気持ちいいし。お前に触られんの本当に好き」
「……晴弘さん、そろそろ黙らない？俺、マジでヤバイんだケド」
「ん、なに？……泡がうるさくてよく聞こえない」
伊織が小さな声で言葉を発するが、酔っている頭ではその意味が上手く理解出来なかった。
しかし彼はそんなのお構いなしとばかりにシャワーで髪の泡を洗い流してくれて、ついでにタオルで拭いてくれる。
「……さぁ、もう上がりますよ。酔っ払ってるのに長湯は危険っすからね」
そう言ってはくれるものの、俺は脱力しきっていて自分で立つ意欲も湧いてこなかった。だからわざとらしく「抱っこして」とおねだりすれば、舌打ちをしながらも俺の腋を抱えて浴槽から出してくれる。
「ほら、ちゃんと身体拭いて。風邪引くよ」
「んー……伊織が拭いてー」
「あのなぁ……はぁ……」
脱衣所でバスタオルに包まれた俺が甘えて伊織に寄りかかれば、彼はため息を吐いて仕方なさそうに俺の身体を拭いてくれた。
「ふぃ……ありがとう伊織、大好きぃ」
「分かったから、あんまくっつかないで。てかホラ、早くパジャマ着る」
予め用意してくれていたのであろう俺のパジャマを持ち出す伊織だったが、俺はそれを軽く手で払っては今だ全裸の彼に抱き着いた。それにはさすがの彼も少し怒ったように「晴弘さん」と名前を呼ぶが、俺は酔っているのであまり効果は無い。
そのまま伊織の胸にスリスリと頬を寄せ、やだ、と俺は子供のようにごねる。
「……伊織、どうせ裸で寝るんだろ？だったら俺も裸で寝る」
「はぁ？もぅ……マジで勘弁してくれ。酔ってるアンタに手出したくないんだケド」
「……意味分かんねーし。俺も伊織とお揃いがいい」
更にその身体へとくっつけば、伊織も怖い顔をしながら分かりましたよ、と俺にパジャマの上だけを押し付けて来た。
「晴弘さん、とりあえずそれだけでも着て下さい。俺もパンツ履くから。ね？それでもう今日はさっさと寝る。分かった？」
「ええー……でも……」
「言い訳禁止。明日の朝、ちゃんと相手してあげるから……今日はもう寝るよ」
よく分からないけど、今彼にくっつくのはダメらしい。
俺は諦めてパジャマを羽織り、伊織に手を引かれながら寝室へと向かったのだった。
そして俺の記憶は、一旦ここで途切れる事となる。
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