その後

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その後

優と付き合いはじめて二年後。俺たちはようやくあの日見た二人の神様を祀った島に降り立った。 この街を出て、県外の企業に就職した優。俺はこっちで暮らしていたので、遠距離恋愛になったものの週末にはどちらかが逢いに来ていた。 あの島に行ける日は、何度もあったのに。行こうと誘っても首を縦にしなかったのは優のほう。 『だって別れるって噂なんだろ?』 少しムッとした顔を見せた優が、可愛くて俺は思わず抱きしめた。 それならなぜ、今日ここに来たのかって? 実は優の転勤が決まりこの街に帰ってくることになったから。遠距離恋愛は解消し、それと同時に同棲することにした。 そしてその生活が今日から始まるのだ。 『これならもうあの島に行っても大丈夫だろ!』 俺がそう言うと、優は笑いながらそうだな、とようやく言ってくれた。 あの日、俺が告白したフェリー乗り場から船に乗る。キラキラ水面が輝いているのを見ていると、あっという間に島に着いた。 二人の神様を祀ってある神社に行き、参拝したあと、優がポツリと言った。 「そう言えばネットで見たんだけどさ、二人の神様をなだめるために、男性の神様を一緒に祀るようにしたらしいよ」 だからもう、カップルに妬かないから別れることないんだと教えてくれた。 海風を感じながら、歩いていく。 「神様に恋人を与えたわけか。でも、三角関係になっちゃうな」 きっと二人の神様は、自分の恋愛に精一杯で、島に来るカップルを妬いている暇なんかなくなるのだろう。 「じゃあキスしても大丈夫かな」 俺の言葉に、優は笑う。えくぼを作りながら。 「多分ね」 あたりに人がいないのを見計らって、俺は優の唇にキスした。柔らかい感触。 今日からは、毎朝毎晩キスできるんだ! 帰りのフェリーの中で、優は眠たくなってきたのだろう、ウトウトしている。やがて俺の肩に頭を乗せてきた。 それは路面電車に乗っていたあの日のようで、俺は思わず苦笑する。 いまだに優にドキドキしてしまう。もう二年も付き合っていて、今日から一緒に住むのに。 「好きだよ優」 小さく呟くと、優は少し口元を緩めて微笑んだ。 【了】
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