裏切り

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裏切り

「佐伯ちょっといい?」 「はい」 悪魔・・・もとい金井さんから呼ばれた。 「土曜の午後から移動で京都に1泊で出張に 行って欲しいんだけどいける?」 「いけますけど・・・。」 「月曜日は休んでいいよ」 「はい。やった!京都ーー」 「よろしくな」 その時はただ京都に行けることだけを喜んでいた!! その夜。たっくんに電話をする。 「たっくん?土曜日から出張になったの」 『俺も土日出張だわ』 「そうなんだね。どこに出張???」 『え??聞こえない』 後ろがガヤガヤしてる。 「飲んでるの?」 『まあそんなとこ』 そんなこと言ってなかったのに・・・ 「次はいつ会える?」 『そうだな・・・水曜日くらいかな?』 くらいって何? 「分かった・・・・」 忙しいっていってたよね??なんで飲んでるの?? 土曜日、スーツケースを持って出社する。 佐伯さんも資料の確認に出社してくれていた。 午前中に資料を作成して、佐伯さんに挨拶して会社をでようとすると、 「佐伯、タクシー呼んであるから」 「ありがとうございます。」 「じゃあ行くか!」 「へ?」 「俺と京都に出張!」 「聞いてません」 「言ってないし、聞かれてないし・・・。さあ行くぞ!」 なんか・・・嫌な予感するなあ。でも仕事だから仕方ないよね 一応、上司だし・・・。 新幹線の中も席は隣だったけど、金井さんはずっとパソコンとにらめっこ していた・・・。意識した自分がちょっとバカみたいだった。 京都に着いて普段と違う雰囲気に気持ちが上がっていく。 たっくんと一緒だったらなあ・・・・。 「彼氏と一緒だったらとか考えてたんだろ?」 「考えてません」 何で分かっちゃうかな?? 「今日は特に何もないから、チェックインしてのんびりするか?」 「のんびりしていいんですか?」 「いいよ。でも俺と一緒ね」 「嫌ですよー」 「お前、上司の誘いを断るのか?」 「パワハラですよそれ」 「デートの誘いだぞ」 「公私混同ですよ」 「飯くらい一緒でもいいだろ?」 せっかくの京都なのに・・・でも仕事だからなあ・・・金井さん・・・ 上司だし・・・。 「ご飯だけですよ」 「OK」 それから宿泊するホテルにチェックインしようとしたら ホテルの手違いでダブルの部屋になっていた。 「さすがに困るなあ。どうにかなりませんか?」 『申し訳ございません。本日はどの部屋も満室でして・・・』 「じゃあ別のホテルに変更しますのでキャンセルお願いできますか?」 と金井さんが言ったところに、支配人がやってきた。 「金井様 この度は申し訳ございません。スイートルームですとお部屋は 分かれておりますので、もしよろしければそちらへご宿泊ください」 スイートルーム?いくらするの?? 「佐伯どうする?」 「どうすると言われましても・・・」 ミスをしたらしき女の人がこちらを申し訳なさそうにみている。これで もし私が他のホテルにしたら・・・・部屋は別にあるっていってたし ・・。 「金井さんがよろしければ私は大丈夫です」 と言う事で、私達はスイートルームに宿泊することになった。 案内された部屋はびっくりするほど広くて部屋に入って立ち尽くして しまった。 「佐伯?」 「すみません。豪華すぎてびっくりしました」 「俺あっちの部屋使うから、佐伯はそっちでいいか?」 「はい」 「夕飯はホテルでごちそうしてくれるって」 「なんでそこまでしてくれるんですか?」 「うちの会社でよく使うからじゃないか?」 「そうなんですね・・・。ちょっと部屋散策してもいいですか?」 「いいよ。俺は少し仕事するから適当にしてて」 「はい」 私は金井さんのいる部屋以外を散策した。 ピアノが置いてあったからちょっと弾いてみる。 夢中になって弾いていたみたいで弾き終わると拍手が聞こえた。 「佐伯ピアノ弾けるんだな。キレイな音だった」 「お仕事の邪魔でしたね。すみません。」 「いや大丈夫。もう終わったから。そろそろ飯行こう」 それから私達は最上階にあるラウンジに案内された。 夜景の見えるテーブル席だった。 たっくんとだったらよかったなあと思っていたら・・・ イチャイチャ度MAXのカップルが横を通った。 「たくー早く彼女と別れてよー」 「分かってるよ。あいつとはもう終わってる」 「旅行にきてて大丈夫?」 「出張だっていってたから大丈夫だよ」 たく??どこにでもいるか・・・。でもこの声・・・。 「たっく・・・ん?」 思わず声をかけていた。 「え?・・・奈央?お前なんで・・・」 「出張だっていったでしょ?たっくんも今日は出張っていってたよね?」 『なになに?たくこの人が彼女??ちょうどいいじゃん別れるって 言ってあげなよ。加奈の方が好きだって。今日だって加奈のためにあなたにウソついて旅行来てたんだよ』 「どう・・・いう・・・こと??」 「・・・・」 『あのね。加奈とたくはもう半年くらい付き合ってるんだよ。 彼女は仕事ばっかりで会ってくれないって言ってたよ?Hしてもつまんないっていったしねーたく』 「加奈・・やめろよ。奈央、お前も出張とか言ってそいつと旅行とかじゃねーの? そういう事だからお互いに幸せになろうぜ!」 『バイバーイ』 と2人はまたいちゃいちゃしながら歩いていった。 「佐伯。大丈夫か?」 私はその場に金井さんがいることをすっかり忘れていた。 「すみません。おさわがせしちゃって・・・私、ご飯いいです。 先に部屋に戻ります。」 と席を立とうとしたら、金井さんがボーイさんを呼んで何かを伝えた。 「部屋に戻ろう」 「へ??」 と私の手を引いて部屋に戻った。その瞬間たっくんと目が合った。 やっぱりみたいな顔で私を見てた。 部屋に戻ると、金井さんはソファーにどっかり座って、 「あんな彼氏が好きだったのか?」 と私に投げかけた。 「私が仕事を優先したからって言ってましたね。私のせいですね。」 「仕事を優先するのは当たり前だろ?」 「わからないです・・・Hもつまらないって言われちゃいました・・ つまらないってなんでしょうね?どうしたらよかったんだろ?」 あっけない終幕。今までなんだったんだろう・・・。ついこの前Hしたのは 仕方なくだったんだ・・・。 「あんな軽そうな女を選ぶなんてあいつはバカだな。」 「ホントですね・・・。笑っちゃいます。」 と笑って見せた。 「無理して笑うなよ。言いたいこと言っちゃえよ聞いてやるから。 我慢するなよ。」 「金井さん・・・優しくしないでくださいよ。私・・・」 我慢していた涙が瞳からこぼれた。 「ほら、泣いていいぞ」 と金井さんは私を抱きしめた。人の温かさに触れて一気に感情が あふれてきた。 「大好き・・だった・・んですよ・・・ずっと・・・一緒にって 言って・・くれてたのに・・信じてたのに・・・」 「俺は知ってる。仕事を丁寧に一生懸命やってる佐伯を。 遅くまで頑張っている佐伯を。」 「ふえーーーーん」 「俺はお前が弱ってるところにつけいるぞ。そんなお前が俺は好きだ。 あんな奴は忘れて俺のところにこい」 金井さんは私を強く抱きしめた。 「佐伯・・・・。あいつを忘れるために俺を利用すればいい。 俺はお前の側にいるから。俺と付き合おう。最終的に 俺の事を好きになってくれたらいい。」 私はあまりにもショックすぎて誰かにすがりたかった。 私は小さく頷いて金井さんの背中に手を回して抱きしめた。 佐伯の彼氏はなんなんだ。あんな猫なで声で香水くさくて胸のでかい 女がいいんだったら最初から佐伯と付き合わなければよかったんだ。 佐伯は、一生懸命仕事をしていた。他の女子社員はデートだっていって 誰かに仕事を任せて定時に帰っていくのに佐伯は残って最後まで仕事をして いた。優しくて笑顔がキュートで男性社員にファンが多い。 最初はただの部下としか思っていなかった。 たまたま昼休みに佐伯に遭遇した時があった。 お昼休みが終わるギリギリの時間だった。迷子の少年を見つけたようだが 同僚は交番に連れて行けばいいんじゃないと言っただけでそそくさと 戻っていっていた。 だが、佐伯はその少年と一緒に交番に行き。しばらく少年と一緒にいたようだった。 俺はそのまま外に仕事があった。戻ったら佐伯がフループ長の女性に 叱られていた。話に耳を向けると、 「あなたが遅れてくるから、会議が進まなかったじゃない。」 「すみません。」 「お昼休みにどんなにいいものを食べていたのかしら?」 「・・・すみません」 理由を話せばいいのに・・・ 「佐伯、さっきはお疲れ様だったな」 「金井さん、何かご存じなんですか?」 「佐伯は迷子の子を当番に連れて行っていたんですよ」 「あらそうなの?そういってくれればいいじゃないの佐伯さん」 「・・・」 「あなたもいつも資料作成を佐伯にさせているから佐伯がいないと会議が進められないのではないですか?」 「え?」 「資料を作らせるのもどうかと思いますが、資料をつくらせたら内容を確認した方がいいんじゃないですか?」 「承知しました。佐伯さんもういいわ。」 とグループ長はデスクへ戻っていった。 「金井さん、ありがとうございました」 この時から俺は佐伯に目を向けることが多くなった。 いつも笑顔で頑張っている佐伯にどんどん惹かれていった。 なのに、彼氏がいると聞いてショックだった。どんな奴が佐伯の彼氏かと 思っていたら、出張だと嘘をついて浮気相手と旅行して、挙句の果てに 佐伯も浮気旅行じゃないかというし、SEXがつまらない浮気相手にいったりして最低な奴じゃないか!  佐伯の涙を我慢している横顔が切なかった。 俺が佐伯を幸せにしてやりたいと改めて思った。 無理に笑って部屋に戻ろうとしていたから、俺はボーイに食事はあとで 部屋でとることに変更して佐伯を部屋に連れて行った。 佐伯の気持ちを吐き出してやりたかった。 きっといつも我慢していたのではないかと思った。 案の定、佐伯は無理に元気にふるまうし・・・なんとか本音を少し 吐き出させることができた。 このまま佐伯を1人にしたくない。俺は弱みに付け込むと告げた。 俺を利用してもいいからあいつを忘れる手助けをしてやりたい。 最終的に俺の事を好きになってくれたら嬉しいが・・・。
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