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夏のある日、嫁と一緒に市民プールに行った。この茹だるような暑さ、家の中でクーラー効かせた部屋でゴロゴロしている方が正しいと思うのだが「戦場に行く前に体動かしておきたい」と言う何とも意味の分からない理由で無理やり車を出す羽目になった。ちなみに戦場とは「有明」の事である。
我が市の市民プールは所謂温水プールである為に夏冬関係無く使用出来る。造波プール、流れるプール、競泳用25メータープール、ウォータースライダー三基、海の家を模したようなテナント、市民プールとは到底思えないぐらいの設備が整っていた。
プールに来たものの嫁は一切泳がずに造波プールや流れるプールで浮き輪を使って浮いて遊んだ後、更衣室近くのパラソルの下でひたすらジュースを飲み続けていた。体を動かしに来たんじゃないのか。
「泳ぐと疲れるじゃない」
炎天下の有明前で始発から何時間も待てる人を疲れさせる「泳ぐ」と言う行為は何なのだろうか。
「それより」
うわ、またクイズかよ。恥ずかしいからやめて欲しい。隣のパラソルの親子連れに聞かれたら人生終わりそうだ。
「あそこのビキニパンツの小学生二人いるじゃない、ちょっと小太りな方とスラッとした細いの」
同じビキニパンツである所同じ学校なのかスイミングスクールのどちらかだろうか。身長は二人共140センチから150センチ前後、ギリギリで中学1年生ぐらいに見えない事もないが、きちんとスイムキャップを被っている所小学生だろう。
「どっちが受けでどっちが攻めかしらね。こんな所に男同士で来てる以上絶対こういう関係よ! 尊いわ!」
正直、こいつと結婚してから「尊い」と言う言葉がゲシュタルト崩壊しているし、意味が分からなくなっている。男二人でプールに行くだけでこんな風に見られる世の中になった事を俺が知らないだけなのだろうか。
俺はとりあえずミックスジュースを飲みながら考えてみることにした。すると小太りの少年の方が細い少年の二の腕を掴み始めた。細い少年は思い切り痛がり小太りの少年の手を振り払った。ああ、俺も昔友達にやられたなあれ。確か筋肉つぶしって言う遊びだったような気がする。嫁はそれをトローンとした目で眺めていた。変な意味は無いぞあれ…… 筋肉がついてればちゃんと痛く感じるし、筋肉ついてない代わりに脂肪がついていればあまり痛くないぞあれ。
「尊い」
嫁は小声で呟いた。それと同時に細い少年が小太りの少年の腹を摘み上げた。それから胸を摘み上げる。太ってるとからかいの意味も込めて胸を揉まれたりする。所謂コミュニケーションとかスキンシップみたいなものであった。
「こんな公衆の面前でいちゃついて恥ずかしくないのかしらね」
公衆の門前で受けとか攻めとかの談義を要求してくるこいつに言われたくない。あれが子供同士のじゃれ合いに見えない脳の構造設計を一度見てみたいものだ。
「それで、どっちが受けか攻めか分かった?」
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