泣き女

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 アスファルトに染みついたアルコール臭が肌にべとつく。粘液質の空気をひとつ吸い込んで、いつもの店のガラリ戸を開けた。  のれんはとっくに外されている。狭苦しい店内には、いつもの連中がたむろしていた。   襟の汚れたTシャツと、黒ずんだジャージのズボン。居並ぶ客の「制服」だ。  酒臭い彼らのため息を、一台きりの扇風機が攪拌している。おかげで店の隅々まで、後悔と疲労が行き渡っていた。 「おう、久しぶり」  店の奥から声をかけてくるのは、以前の職場の先輩だ。小柄で太って髪も薄いが、大きな眼には愛嬌がある。風俗通いで借金まみれとなり、督促の電話が職場に頻繁にかかってきてクビになっていた。かつての同僚の目を気にして、地面ばかりを見つめているが、この店でなら顔を上げられるらしい。  隣に腰を下ろして、安酒で乾杯する。かつては美酒を求めてはしごしていたという彼は、今はコップ酒を手に「これはこれでうまいよ」と、私にというより自分に言い聞かせている。  話題らしい話題はとうの昔に尽きていた。口から出てくるのはスポーツ新聞のゴシップ記事くらいだ。大して興味がない時でも、お互いもっともらしい意見を言って会話を続ける。日常を忘れる為の、ささやかな抵抗だ。
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