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二話 怪我をした野犬
ネットの情報にあった場所には、神社と言っても小さな祠がある程度で、神主などはいなかった
この辺りの地域に住む住民が、たまに手入れをするだけで舗装された道は無い程に
人通りの脇から、林へと獣道を入った先にある祠だった
「 この周辺で見掛けるのか… 」
肝試しをしていたら見掛けた、夜に帰る最中道路を横切っていた
そんな情報が有るのだが、此処で寝てるようには見えない
此れでも犬を長年飼っていたし、ルーカスも広い庭があっても休む場所は決まっていた
「 これが祠なら…もう少し奥か 」
既に早朝にこの辺りを彷徨いてる時点で、相当な不審者だが
街から外れてることもあり車の通りも少ない
野犬が身を隠すには最適だと思うぐらい、林もだが、枯れ草も多い
落ち葉を踏み締め、ゆっくりと感を頼りに奥へと進みながら細い枝を片手で防ぎ、時折折ったりして歩く
「 此処にも祠があるのか… 」
供え物でも持ってくれば良かったと思うぐらい、小さな祠があった
何もなくしゃがみ込んで見詰めれば、中は空っぽだった
何もない?と疑問に思うが、この祠だけ落ち葉が積もってない為に
定期的に誰かが、屋根の落ち葉を落としてるのだと思う
「 此処は…なんの祠だ? 」
水子の神か、それとも自然系統の神だろうかと色々考えるも想像はつかず、何となく足元を見れば踏み締められてる落ち葉を見掛け、それを追っていく
「 作りかけの…トンネルか?いや…それにしても小さいな 」
それとも昔、トンネルがあったのは分からないが
土管のように空洞があり、僅かに影になってる事に住んでいても可笑しくないと思っていれば、響く声が聞こえたきた
「 ……あ、この中にいるのか 」
「 グルルルルッ…… 」
土管によって反響して、数が多く聞こえるが
唸ってるいるのは一頭だと思う
縄張りに侵入したのは俺が悪いのだが、何かしら食わせようと物は持ってきている
もう少し、誰かの私有地っぽいのならそんな事はしないが……
興味が勝った
もしかしたらがルーカスに似てるっていう部分から、気になったのかも知れないがな
「 此処に置いておく、食べてくれ 」
持ってきていたビニール袋から、紙皿を取り出し
その上に犬缶を二缶ほど開け入れてから、後ろへと下がり、少し距離を離れる
後でゴミとなる紙皿は回収しようと考えてる為に、食べてくれるのを待つことにした
丁度良く身体が隠れそうな祠がある為に、そこにしゃがみ込んで僅かに見ていれば、数分してやっと野犬は出てきた
「( っ……思ったより酷いな……)」
夏の抜け毛が取れ切れて無いまま、冬毛へと変わりかけてる為に毛玉は酷く、抜け毛を付けたまま
そして何より、灰色掛かった毛並みには血が滲んだように赤い部分が所々にある
特に右腕と、左足はびっこを引く程に痛々しい
あのまま放置していれば、ウジが湧くだろうと思うぐらいの酷さに息は詰まる
喧嘩でもしたか、それにしては噛まれたりしたようには見えない
もっと鋭利な……
「( 虐待か…… )」
犬の怪我から見て、ナイフでも持っていた奴に刺されたように思える
それも肩あたりと脚となると、反撃しようとして与えられたか
人に唸る理由も分かるが……
野犬やら野良猫を虐待するニュースは流れてるが、目の前で見掛けたなら病院にでも連れて行きたくなるものだな
「( ……リードは持ってきたが、捕まるかどうか )」
匂いやら周りの音を気にして、食べるのに慎重な野犬は、缶詰を食い終え皿を何度も舐める様子に腹が減ってるのだと思う
ボロボロの毛並みでも分かる程に、肋は浮き出でガリガリにやせ細っている
少しだけ、亡くなったルーカスが餌の量が減って痩せていった姿に似て目尻は熱くなる
空腹で死なせたくはないと思ってしまうんだ
「 そう舐めなくとも、もう少し持ってきている 」
ビクッと反応して、身を下げては後ろにある土管に隠れた事に呆れる
一気に食わせるのも気に掛かるが、そこまでずっと皿を舐められてもいい気分にはならないために
追加で買っていた缶を空けていれば、野犬はゆっくり顔を覗かせた
「 ……御前……犬か? 」
ハッキリと近くで顔を見て疑問に思う
犬だろうけど、犬ではない
身体の大きさが、痩せているが大型犬ほどは有りそうだが
其れよりも小さい耳、頭から背中に掛けて垂直の線を保つような歩き方
そして何より牙の太さと、手足が先端に向けて細くなってるところだ
七十五%のウルフドッグ、それをTVなどで見たことはあるが
そんなシェパードらしさはない、完全な狼のような体格をした獣が目の前にいる
琥珀色のアンバーの左目と、海色のブルーの
右目を持つ野犬
怪我をした右腕を見ると、もしかしたら此奴は右目の視力が低いのかと思う
「( 狼?まさか…な。日本にいるわけ無い…… )」
ウルフドッグが捨てられたに違いない
ルーカスや、シェパードより大きな骨格に見惚れるがやせ細ってるから勿体無いな
種類を考えるより今は先だと思い、缶を追加で入れ皿を野犬の方に寄せてから、後ろへと下がる
「 どうぞ… 」
今度は俺が居ても平気なようで、じっと此方を見つめてから匂いを嗅ぎ、餌を食らい付く
数秒で平らげて皿を舐めては、周りの匂いを嗅ぎ求める目を向けるが、
流石に、こんなデカイ野犬とは思わなかった
「 すまない…もう持ってないんだ。あー…ジャーキー食うか? 」
手元に来させる為のジャーキーだが、他に持ち物は無かった
取り敢えず食うだろうかと、ビニール袋から取り出し
犬用のジャーキーの袋を開け、一本取り出しては軽く足元に投げる
「 結構、すんなり食うな…。腹が減ってるのか、それとも元飼い犬か 」
もう少しジャーキーに警戒するかと思ったが、投げた物を食べては
こちらを向く様子に、態と上に向かって投げてみた
「 ふはっ…下手くそ 」
顔を上げて食べようとしたのに、顔に当たって落ちた様子に笑える
まるで、ルーカスの幼い頃を見てるようだ
彼奴も何度かやって上手くなっていたからな
やっぱり犬はいいと思う…
こうやって吹き出すように笑ったのは久々だと思う
ジャーキーを投げ渡す距離を縮めていれば、早く欲しい野犬は、直ぐ近くまでやって来た
「( 触れそうか…… )」
手元にジャーキーを持ち、一歩近付くと共に僅かに手元を引けば、それに合わせて首は伸びてくる
手の位置は変えようとしない辺り来たくは無いように見えるが、敢えて時間をかけていれば
時折俺の顔とジャーキーを見て、野犬は脚を動かした
片手を伸ばせば触れれる距離だが触ることなく、歯の先で噛み引っ張るように取られれば野犬は離れた場所で食う
「 残念、今のでラストだ。流石にもう無い…俺は帰る 」
両手を上げて餌がないことを伝えてから、少しだけ名残惜しいが離れる必要がある
座り込んでいた為に尻の落ち葉を払い落とし、背を向けて歩けば野犬も少し近寄ってきた
「 もう無いから…不味いな。人慣れさせる気はないんだが…… 」
人に慣れて餌欲しさに襲いかかったらどうする
そんな事なら連れて帰るのだが、と考えて車を止めていた場所まで来れば態とらしく後ろの座席を開ける
「 来るか?いいぞ? 」
じっと俺を見た野犬は、察した様に背を向け林の中へと帰っていく
「 流石に、こう簡単には…来ないか 」
無理も無いと思ってその日は帰ることにした
土日は休みでもあり、早朝に起きる癖もある為に
次の日の日曜日もまた犬缶を四缶と、食いの良かった方のジャーキーを買い、あの場所へ向かった
土管に近付けば唸り声は聞こえるが、餌を置いたことでゆっくりと出てきた
「 なんか、傷…膿んでないか?御前よく…舐めてるだろ? 」
昨日より悪化してるような傷口
抉れたように肉が見える気がして痛々しい
脚に至っては地面に付こうとはしないぐらいだ
餌を食べてるスキに顔を覗かせて見ようとすれば、警戒したように身を隠す動作をする為に弱ってる事は分かる
それでも空腹を満たす方が先なんだろうな
「 次は…薬でも持ってくるか 」
距離は然程、縮まらないまま
日曜日の餌は終わりを告げた
夕方にもう一度行ってみたが、姿が無かった為に
朝方ぐらいしかいないのだろうと思った
「 野犬の捕らえ方…… 」
怪我をした野犬の治療の仕方、捕らえ方などを検索して調べてるが、
結構、捕まえるのが雑だったりする
網やら罠に追い込んで…などがある為に頭を悩ませる
「 社長、土日にいい事でもありました? 」
「 ん?何故だ? 」
「 だって、顔色がいいですから。気になる犬でも見掛けましたか? 」
少し思考があの野犬の事ばかりになってるから、察したのだろう
首を傾げるも、部下は笑みを向けてきた
「 そうだな……。御前なら、怪我をした野良猫でもいたらどうする? 」
「 野良猫ですか?捕まえれるなら病院に連れていきますが……無理なら諦めますね 」
「 そういうものだよな…… 」
無理そうなら諦めるしか無いか
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