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三話 強硬手段
仕事のある月曜日から木曜日は、流石に会うことは出来なかった
仕事疲れで、疲れてる為に家から距離の離れた彼処まで朝から行く気力は無い
心配でSNSは頻繁に見ていたが、野犬の新しい情報は無かった
それが少しだけ嬉しいようで、寂しいものがある
「 社長、飲みに行きませんか? 」
「 悪いが…今日は寄りたい場所があるから無理だ。また月曜日な 」
「 あ、はい…お疲れ様です 」
金曜日の仕事終わりに行くと決めていた為に、今日は愛車で出勤していた
車の中には買っていた犬缶やらある為に、そのまま向こうに行ってみよう
夜なら居るんじゃないかと言う期待を込めて、二十一時過ぎ
祠のある林へと向かった
「 犬…いるか? 」
声を掛けても出て来ない事を知ってるが、懐中電灯片手に林へと進む
少し歩いた先に、祠があるのを確認すればその先にある土管まで行く
「 …餌だぞ 」
袋を探る音や、缶を岩に当てて鳴らせば出て来るようになっていたのだがその雰囲気はない
「 やっぱり居ないか…… 」
朝方しかいないのか、そう思いながら座り込んだまま真っ暗な土管の方に光を当てて考える
何となく帰るのが寂しいが、餌を置いてカラスなどが来ても困る
また明日でも来ようか、そう色んな事を考えていればやけにハエが寄ってくることに気付く
「 先週まではこんなにいなかったはずだが……まさか…… 」
顔に近付くハエを払い、何となく自分で呟いていた事が起こったんじゃ無いかと思う
傷口にウジが湧くだろう……
そう言ってたのは俺自身だ
ネットに書き込みが無かったのも此処から動いてないから、見掛けた人がいなかっただけかもしれない
咄嗟に口元をハンカチで覆い、後頭部で結んでから中へと入る
ハエの飛ぶ音と酷い獣臭が鼻にくるが、一番奥へと進んだところでライトで見える塊に気付く
「 っ……おい、死んで無いだろ? 」
横たわって動かない塊は確かに、あの獣だった
近づいてライトを当てれば、ハエが身体に群がってる事に眉は寄る
生存を確認しようと、手を伸ばせば野犬は動く事なく僅かに唸り声を上げる
「 グルルル…… 」
「 生きてはいるな…。助けてやるからじっとしてろよ 」
一旦、車に戻ろう
手荷物が多いと運べないと、久々に走ったと思うぐらい走り、ビニール袋を車に戻し
後ろの座席を前に移動させ、トランクが広く使えるようにすれば
たまに仮眠用に置いていた毛布を広げ、もう一つの薄い方を持っていく
顎でライトを挟んだまま野犬の位置を確認し、軽くハエを払ってから毛布を掛けようとすれば、唸っていた野犬は身体を動かした
「 グルルル…… 」
「 っ……それでも御前は…助けられたく無いんだな 」
腕へと噛み付いてきた野犬の牙はスーツの上からでも圧迫感がある
流石に牙までは通らないが、痣になる感覚はある
餌をやった相手を忘れるとは思えないが、助けられたく無いプライドは感心する
根っからの野犬だろうかと思うが、今は放置は出来なかった
「 放置なんて出来はしない……咬んで静かならそのままでいい 」
「 ヴヴッ…… 」
犬は咬む生き物だとは良く理解している
防衛本能が働いてるのだろう
本当に嫌で、毛嫌うなら首を振って牙を突き立てようとするだろう
だが、それもなく噛み付くだけなら触るなと忠告してるだけに過ぎない
痩せている為に軽く思えたが、案外ずっしりとした重さがある為にやっぱり大型犬っぽいなと思い、毛布で身体を包み車へと連れて行く
「 よし、じっとしとけよ…… 」
トランクに乗せ、動く気力はないのを見てからトランクを締め
運転席へと戻る、ハンドルやら臭くなるが後から良くすればいい為に、ハンズフリーのワイヤレスイヤホンを使い、ルーカスの時に世話になった日の丸動物病院に連絡する
「 もしもし、夜分遅くにすみません。ルーカスの事でお世話になった…犬塚です、あ、はい…。それで…… 」
野犬を見てくれるとは思えないが、怪我をしてる事を伝えれば直ぐに連れて来て良いと言われた為に安堵する
「 ありがとうございます…。直ぐに連れてゆきます 」
流石、信頼してる動物病院だけある
安心して、バックミラーを時より見ながら犬が動いてないのを確認して、動物病院へと急いだ
「 直ぐに、診察台へ 」
「 医療費含めて支払いますので…コイツを、助けて下さい 」
「 分かりました。後は此方に任せてください 」
「 宜しくお願いします 」
緊急患者が来ると連絡していた為に、直ぐに対応はしてくれた
まるでルーカスが倒れた時のような対応に少しだけ、安心もするが心配だった
車から診察台に運ぶまで、咬む気力が無い程に呼吸が浅かったのを知っている
只の野犬なのに……助かる事を願っていた
「 犬塚さん…汚れてるのでこれを使ってください。車の中には殺虫剤をどうぞ 」
「 ありがとうございます…使わせて貰います 」
ウエットティッシュや、ゴミを入れる袋などを受け取った為に手当されている間、車の中をキレイにし戻った
ハエ用の殺虫剤を撒き、毛布を外で叩いては汚れを落とし丸めて、ビニール袋へと入れる
自分の服の上着も脱ぎ、畳んで置き
外にある犬の手足を洗う為の手洗い場にて、腕やら手をしっかりと洗い流す
ついでにその場で、スーツやら軽く洗い
ハンドルなどをウエットティッシュで綺麗に拭き、換気ついでに車の扉を開けておく
多少ハエも逃げると思い、放置して息を吐く
じっとしていたら心配で考えてしまう為に、必要の無いところまで綺麗にしていれば、獣医のスタッフは出てきた
「 犬塚さん、ちょっと宜しいですか? 」
「 はい 」
死んだ…なんて聞きたくないと思い
平常心を保ってついていけば、彼女はカルテを差し出してきた
「 簡単に書いてもらってもいいですか?脱水症状と栄養失調が見られたので、一週間ほどは入院らしいので… 」
「 嗚呼、なら…命に別状は無いんですね? 」
「 ええ、後…一日でも遅かったら危なかったでしょうが…。今は大丈夫ですよ 」
「 良かった……ありがとうございます 」
いえいえと首を振った彼女に何度も頭を下げてお礼を伝え
カルテに書いていく、犬種は雑種…
名前は…ボリス、と取り敢えず名付けた
日本犬っぽく無かったのもあるが、ルーカスもカタカナの為に似たような系統にした
性別は分からなかったが、既に看護師さんが必要な項目は書いていた
「 やっぱりオスだったか…雰囲気からして、そんな顔はしてたな 」
雌ならもう少し優しい顔立ちをしてるだろうが、雄だと丸がついてあって納得する
その他の項目を埋めていけば、看護師さんがやって来て渡す
「 ボリスくん、いい名前だね。これをお預かりしますね。それと…里親探しのチラシは作りましょうか? 」
「 いえ…そのまま飼わせて下さい。これも何かの縁なので…… 」
「 ふふっ…分かりました。予防接種なども致しますね 」
「 宜しくお願いします 」
病気があるか、等といった検査も全て任せた
俺が出来る事は死ぬ事を受け入れたはずの野犬を、飼ってやることしか出来ない
あんなに人慣れしてない野犬を里親募集中したところで、見つかりはしないだろう
それなら…もう、俺が飼った方がいいと思った
「 ルーカスに…住人が増えることを伝えないとな…… 」
愛犬を失ってまだ一ヶ月そこ等で次の犬か…
随分と切り替えが早いと思うが、ルーカスを忘れることは無いし、ボリスはボリスとして可愛がる気でいた
寂しいような、少しだけホッとする気分にその場に座って待っていた
「 犬塚さん。ボリスくんの手術が無事に終わりましたよ。見ますか? 」
「 勿論…… 」
呼ばれた為に手術台のある方へと行けば、顔以外の全身の毛が剃られた何とも可哀想な姿がそこにはあった
「 犬塚くん。この子ね…肩と脚に刺されたような痕があったけど…いつからかね? 」
「 俺が知ってるのは先週の土曜日からです… 」
「 そうかね…少し、膿んでいたが、深くは無かったから大丈夫さ。ウジ殺しの薬も、虫下しも飲ませて…… 」
一つ一つ、丁寧に行った手当を教えてくれた
全身麻酔によって目を閉じて眠ってる姿に、やっと落ち着けて寝れるんじゃないかと思う
そっと初めて触れた頭を撫でれば、毛並みはどこかルーカスに似ていた
「 良かったな、ボリス。良かった……先生、ありがとうございました 」
「 いえ、犬塚くんが助けようとした心にうごかされただけです。他の病気は無さそうですし…抜糸が終わればお家に返せますよ 」
「 はいっ 」
ボリスは一週間ほどの入院となった
その間、野犬の彼奴が騒いでもいいように使ってない部屋の一つに新聞紙を敷き詰めて、ペットシーツやら載せて、洗った毛布を角に置く事にした
「 愛護団体のシェルターみたいだな、まぁいいか… 」
次亜塩素酸水生成器をフル活動させ、いつでも迎え入れる準備を整えていた
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