四話 腹ぺこボリス

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〜 犬塚 視点 〜 餌を上げる時だけ、気を許されてるのは察していた それ以外に近付こうとすると、嫌がやれる為に流石野犬 食欲の為なら身を許すが、後は駄目なんだろう エリザベスカラーを外してから、 二週間程度じゃ、流石に懐かないか…と 溜息が漏れる 「 社長、どうしか致しましか? 」 「 ん?あぁ…いや……ちょっとな…… 」 「 貴方が悩む事でしたら、犬の事でしょうね。話してくださいよ 」 秘書である、猫澤(ねこざわ) 由羅(ゆら) 猫を十二匹飼ってる話を聞いてるほどに、コイツは大の猫好きだ まぁ、猫を沢山飼ってるが犬を毛嫌いすることも無く、俺の話をよく聞いたり お互いの家に遊びに行き、愛犬と愛猫と触れ合った事はある 仕事以外のプライベートでも、我が子の話になると盛り上がる程に、 動物愛好家としての友人関係を築いていた 「 そうだな……。大きな野犬を連れて帰ったんだが…目の前で飯は食うんだが、懐いてる様子は無くてな。家に来て三週間ぐらいになる 」 「 ご飯を食べるだけ上出来ですよ。最初は慣れない環境、人に戸惑うものです。猫もですが…犬もきっと落ち着くまで時間掛かりますよ 」 「 ……ゆっくり待つか 」 「 えぇ、焦らず。一歩一歩、距離を縮めましょう 」 俺は少し焦りすぎたのかも知れないな 犬の居ない環境が寂しくて、触れる事を喜んでいた だが、ボリスからすれば他人から触れて嫌だっただろう 知らない場所、知らない人間がいるんだ 仕方ないと諦めるしか無いな 「 嗚呼、分かった。取り敢えず飯は食ってくれるんだ…それだけで安心しとこう 」 「 後は、出来るだけ傍にいる時間を増やすぐらいですね 」 傍にいる時間……確かに餌を上げる時間だかしか入ってない気がする 仕事だからと触れ合う時間が少なかったかも知れないな 土日も、出来るだけ落ち着かせようと部屋に行かなかったが、それが不味かったかもしれない ルーカスの時は子犬だった事も理由だが、初めての子犬に溺愛して、常に一緒にいて撫でていた事を思い出した あぁ、あの時みたいにすれば良いんだな 「 よし、決めた 」 「( えっ……えっ……急んだよ? )」 仕事終わりに、24時間営業のスーパーで寄ってから必要なものを買い 家に帰り、早速準備することにした 晩飯と薬を食わせた後で、俺は猫澤に言われた事を実行する事に決めた 急に大荷物を持って入った為に、ボリスは尻尾を股に丸めて、耳を下げ不安そうに端へと逃げて戸惑っているが仕方ない 元々この部屋は、設備が揃ってる為に電気コードをさせる場所はあった 仕事用のPCが置ける、折りたたみ式の小さなテーブルを置き、座る為のクッション そして、床で寝てもいいようにマットレスを置き、布団を敷く 「 今日から、此処で飯を食うし、一緒に寝る。その方が良いだろ 」 家を出る時はPCをリビングに持っていき、布団を畳み、テーブルも閉じればボリスには普段のスペースがある あくまで、俺が家にいるだけの時間だけ傍にいられるようにしたんだ 戸惑ってウロウロと姿勢を低くして歩くボリスを他所に、PCを開き仕事を始める 「 よし……仕事しよう 」 持ち帰った仕事をする為に書類を出し、PCを開いていればウロウロとしていたボリスは、彼に上げた毛布の上に戻り こっちをガン見したまま座りっている 俺がちょっとでも動けば驚く様子に、やっぱり慣れないものが置かれると怖がるな…と思う まぁ、毛布と同じように慣れてくれればいい 「( えっ、なに…監視??好きな時にトイレ行けなくなるじゃねぇか…… )」 ボリスに触りたいが、我慢しよう ジャーキーばかり与えたら一日に上げてもいい量を超えてしまう ガムの骨を渡しても、三回噛んだ程度で飲み込んでしまうから、デカイのも駄目だな まだ小さいのなら良いかと、甘い考えを持つが、良くないと思いPCに集中する 「( 触りたい……触りたい…… )」 犬が傍にいれば、それだけ触りたくなる 仕事をしていてもウズウズする為に、仕事を一旦止めて床に倒れ込み、頭を上へと向ければ 逆さまに見えるボリスは落ち着いたように、寝ていた 今なら、触れるだろうかとズズッと身を動かし近付けば 耳はピクリと動き、左右に違う瞳は俺を写した 「( なっ………!? )」 「 ……バレた 」 ビクッと身体を跳ねて起き上がったボリスは、壁側に寄ったことで伸ばしていた手は腹上へと戻る 「 残念…… 」 まぁ、仕方ないと諦めて息を吐いていれば 横になったことで一気に、休憩モードに入る 「 不味い……ふぁっ……… 」 マットレスを準備したのに、その上で寝る前にフローリングの上で寝かけている 唯一腰に、クッションが有るだけでこのまま寝そうだと思うが、身体は云う事を聞かなかった 鉛のように重くなった身体と瞼、必死に起きようとするが既に半分夢の中へと入り そのまま、寝落ちしてしまっていた…… 〜 ボリス 視点 〜 毛布と新聞以外、何もなかった部屋に急に色んなものを、持って入ってきた事にビビった まるで、24時間監視するようなセットに理解出来なかったが 後ろから見ていれば、画面は文字ばかりだし、仕事の内容っぽい事を呟いていた為に 仕事セットを持ってきたんだと分かった 余りの字の多さに眠くなって、寝てしまったが動いた気配に起きたら、仰向けのくせに 顔はこっちを向いてる事に驚いて、身が跳ねたように離れたんだ 「 なにこいつ、こわっ…えっ!寝たし…… 」 まるで関節の可笑しくなった貞子みたいな雰囲気かあって、恐ろしかったが 少しして眠り始めた スヤスヤ寝てる様子に確認するべく、ちょっと頬を鼻先で突っ付いてみたが動きはしなかった これは完全に寝てるな、と確信すれば溜息は漏れる 「 暖房ついてるとはいえど、風邪引くぜ……。仕方ねぇな 」 やれやれ、とこの男が準備していた布団に近付き口に咥えて引っ張るのはだるい為に、人の姿へと変わる 短髪の茶色の髪に、黒いメッシュが入った髪型 そして、薄い長袖の黒インナー程度になった服装の上から この男が着せた無地の半袖を着ていた まぁ、センスは悪くないかと思いながら布団を掴み、身体へと被せる ついでに枕を頭の上に置いた後に気付く 「 そう言えば、中からは鍵がかけれないんだ……!よし、出よう…… 」 傷口も治って来たし動けるようになってきた この環境もいいが、イッヌらしくいる気もないしバイトも気になるから、離れる事にした 「 世話になったな…… 」 名前すら知らない男の人 少し犬が好きなんだなって言う程度で此処までするか分からないが、俺には大きな御世話に思えた 部屋のドアノブは開き、音を立てないよう廊下に出る 「 うわ、ひろっ…… 」 思った以上にバカでかい家 こんな所に一人かよ あり得ねぇ、どんな金持ちなんだと思いながら、リビングへと脚を向ける 「 ……写真?犬と……それに 」 立て掛けてある写真立てや、メダルの数 アジリティーで愛犬が優勝したのだろう、その時のものやらある そして、楽しげににこやかに笑ってる笑顔の男と、自信満々の犬 「 犬の匂いは薄いし……死んだか 」 何故、どこか暗い顔をして… 寂しそうな手で俺を撫でては、見詰めるのか分かった 彼の愛犬は、何かしらの理由で亡くなり そして…ペットロスとかになってたのだろう リビングから見える広そうな庭 犬が歩き回っていいように、家の床にはものが置いてない 最低限のものしかない事に、犬の為なんだと理解が出来た 「 だが…俺は、愛犬にはなれない。一匹狼だ……。悪いが、他のイッヌを探してくれ 」 俺は、狼族の一匹であり…一人の男 誰に甘える事もなく、生きていく術を学び、そしてホームレスと呼ばれていても三年ぐらいは街で暮らしていた 喧嘩さえ巻き込まれなければ、変わらない生き方であり コレからも変わらない… 開けやすい玄関から外に出て、風の匂いを頼りの街の方へと走っていく 「 ん、ボリス……ボリス!? 」 目を覚ました時、野犬は何処かに行ってしまうと思って どうか、忘れて欲しいがな 「 とりあえず、寝床に戻ろう 」 ホームレスの時に使っていた、川沿いの土手を寝床にしていた為に そこにある、土管に向かう事にした 「 匂い……月の位置……。向こうか 」 深く息を吐き、鼻から匂いを嗅ぐよう 肺いっぱいに空気を吸い込み、何度も位置を確認して走る 人の姿だと走り辛いし遅い為に、狼の姿に戻り 夜の街を横目に、川の方へと向った
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