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その日の情報はそこまでしか入らなかった。
表層の情報だけでは動きまでは掴めないし、目的も定まらない。
なによりウララさんの囲いになっていたお客さんを帰らせるのが、なにより骨が折れた。
ウララさんからはフレンドコードも頂いたが、使うことはないかもしれないとインベントリに保存した。
翌日、楓がえらくやつれた表情で僕のところに来た。
「早速弱音を吐きに来たのかな?」
あえて厳しめに視線を逸らすと、僕の頬を両手で押さえつけて無理やり目を合わさせる。
「弱った女の子には優しくするのが礼儀でしょ?」
「どこの国の作法だよ、わかったから話せよ、聞いてやるよ」
たった1日でだいぶ参ってるようだけど、甘くすると比良宜の折角の苦労が水の泡だ。
ただでさえ面倒臭がりゆえ、中途半端な態度はこれからの協力を得られなくなることもなくはない。
「先生は拓也がいい!」
「なにを言い出すかと思えば想定の範囲内だな」
「彼はなんか自分のヤレヤレを押し付けて、こっちのこうしたいを聞いてくれないもん」
「それだけ必死なんじゃない?」
「違う、あれは鬱憤を晴らしてる」
「まさかそこまでは――」
「おう」
比良宜が後ろから声をかけてきて、僕は振り返る。
すると気のせいか肌がツヤツヤで、普段の薄暗い表情がまるで晴れた太陽のように光を放っていると感じる程だ。
「……晴らしてんな」
「でしょ?」
どうにも噛み合わない2人を横目にため息をつく。
なんだかんだ色々根回しや、裏方をするのは僕の仕事になるのか。
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