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ちあき、チアキ、千諒。
〝聡明〟で〝思いやりのある〟どんなことにも揺るがない穏やかな人になってほしい。
親にもらった大切な名前は、小さい時から大好きだった。
けれど大人になるにつれ、いつの間にか仲の良い友人知人、それ以外も、俺がほとんど知らないような人からも、そう呼ばれるようになった。
あまり親しくない人に〝千諒さん〟と呼ばれることに抵抗がある。
これはいろいろあったせいで仕方のない事だが、数年前からどうしようもない拒否反応。神経質と言われようと、特にあまり関わりのない女性から〝千諒さん〟と、名前で呼ばれるのが不快に感じる。
こっそり近付いてきた吉川が、溜息を吐きながら俺に話しかける。
「音山さんはさ、ああ見えて事務処理能力も高くて助かってるわけよ、いい子だし。せっかく慣れてきたところだしさ」
「わかってるよ」
「ほんとどうにもならんね、あなたの女嫌いは。良くないよ?」
「わかってるって」
吉川は、ここを始めた頃から二人三脚で同じ方向へ走れる大切な仲間であり、彼自身はWEBデザインを担当している。
先見の目があり、広くいろいろな分野を見知ってくれているので大変助かっている。
それは経営においても社内においても。
様々な部分の調整役で、俺の片腕のような存在だ。
「音山さん、気分悪くしたかな」
「大丈夫だけどさ、別にいいでしょ、千諒さんくらい。だったら全員に社長って呼ばせれば?」
「社長はやだ、三枝でいいです」
「面倒くさいなまったく」
とりあえず、いろいろな面倒は避けたい。
ただ真面目に仕事がしたい。
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