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1.三枝千諒のユウウツ
恋愛は要らない。
女性と関わるのは面倒で、なるべく避けたい。女性不信に毛が生えた程度かと思っていたけれど、数年放置したせいで余計拗らせているのは自覚している。
「千諒君、今日にこれ印刷に回したいから、後で少し時間いいかな?」
「はい」
「三枝さんお電話です、お繋ぎします」
「はい」
「千諒さん! 頼まれていた資料集めました!」
「……はい、ありがとうございます」
「間違いないでしょうか? 千諒さん」
中途採用で入社したばかりの音山さんは、いつもテンションが高い。
「音山さん、申し訳ないんだけど」
「ハイ! なんですか!?」
「名前で呼ばれるの苦手なので、三枝でお願いします。」
「……すみませんでした、サエグサさん」
三枝 千諒(32)
(株)ハコニワデザインファクトリー代表
アートディレクター/デザイナー
ハコニワは、地元の企業デザイン、店舗プロデュース、商品デザイン・プロデュースなどを主にする会社で、地元では「あそこにお願いすれば間違いない」と評判の、優良企業である。
大学在学中に友人と一緒に始めた、飲食店や既存の店のプロデュース事業。それがとんとん拍子で上手くいき、卒業間際に小規模だが会社を立ち上げた。
一緒に始めたその友人の一人は、三年後、家業を継ぐために会社を辞めることになった。円満に、新しい人生へ踏み出す形で。
残った俺がたまたま代表になった。
それだけのこと。
始まりの頃から一緒に働いている仲間数人。
規模が膨らむ度に増えていった社員が数人。
総勢十六名の会社が、今の俺の居場所だ。
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