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「栗原さーん」
「あ、椿ちゃん。遅くなってごめんねー」
最近いい感じでデートを重ねている男性が、私の顔を見てにこにこ笑いながら走ってくる。
前職の末期的状況の中、大丈夫か?と親身になってくれた出版業の人だ。
へろへろのぼろぼろの状態の私でも、可愛いね、素敵だねと言ってくれる。
優しくて、良い人だと思った。
まだ恋人同士のような関係ではないけれど、おそらくつき合うことになるだろうと思っていた。
若い頃はそれなりに恋もした。
相手の事がいくら好きでも、上手くいくこといかない事がある。
現在32歳で、そうそう好きだ嫌いだばかり言ってもいられない年齢のような気がしている。人並みに穏やかな家庭を、願わくば子どもを育てたいという気持ちもある。
だから〝いいかも、こういう穏やかな人。結婚するならこういう人がいいんじゃないかな〟そんな風に考えていたんだ。
好きだから一緒に居たい、この人を幸せにしたいなどという思いはなく、ひどく打算的だったと思う。
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