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とりあえずこのシャツを何とかしなければ。手に渡されたシャツ、苦々しい紅茶の香りの奥に、三枝君の匂いがした。
「……」
何も考えず心を無にして、洗剤を手に取った。良かった、落ちる。でも少し色がくすんでいる。どうしよう。こんな広範囲に……。
部屋に戻ると、今日ここに来るはずだった栗原さんはおらず、三枝君がいる。
その奇妙な光景に啞然としながらも、なぜか泣けてくる程安心する。
三枝君と再会してから、涙と、カッコ悪くて情けないところしか見せていない気がする。
それなのにまた、親身になって話を聞いてくれて、なぜかわからないけれど、せめてものお詫びにと出した抹茶ミルクで爆笑され、私の拙い写真や絵を見て言葉をくれる。
シャツは要らないと帰って行く三枝君の後姿を、何度もお礼を言いながら見送った。
べつに三枝君はここに来る理由なんて何も無かったんだ。多分私が普通じゃなかったから、冷たく突き放すことができなかったんだろうな。
扉がバタンと閉まった時に感じた虚無感。
急いで鍵を閉め直ぐにシャワーを浴びる。
バカなことを考えるな、目を覚ませ、と。
部屋に戻ると、飲み終えたマグカップが、そこに間違いなく三枝君がいたことを物語っていた。
「はー、王子。ほんとに王子」
私も、冷たい顔で引き潮をされないように、嫌われないように、気を引き締めなくちゃだわこれ。
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