5.三枝君が王子たる所以 side K

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 とりあえずこのシャツを何とかしなければ。手に渡されたシャツ、苦々しい紅茶の香りの奥に、三枝君の匂いがした。 「……」  何も考えず心を無にして、洗剤を手に取った。良かった、落ちる。でも少し色がくすんでいる。どうしよう。こんな広範囲に……。  部屋に戻ると、今日ここに来るはずだった栗原さんはおらず、三枝君がいる。 その奇妙な光景に啞然としながらも、なぜか泣けてくる程安心する。  三枝君と再会してから、涙と、カッコ悪くて情けないところしか見せていない気がする。  それなのにまた、親身になって話を聞いてくれて、なぜかわからないけれど、せめてものお詫びにと出した抹茶ミルクで爆笑され、私の拙い写真や絵を見て言葉をくれる。  シャツは要らないと帰って行く三枝君の後姿を、何度もお礼を言いながら見送った。  べつに三枝君はここに来る理由なんて何も無かったんだ。多分私が普通じゃなかったから、冷たく突き放すことができなかったんだろうな。  扉がバタンと閉まった時に感じた虚無感。  急いで鍵を閉め直ぐにシャワーを浴びる。  バカなことを考えるな、目を覚ませ、と。  部屋に戻ると、飲み終えたマグカップが、そこに間違いなく三枝君がいたことを物語っていた。 「はー、王子。ほんとに王子」  私も、冷たい顔で引き潮をされないように、嫌われないように、気を引き締めなくちゃだわこれ。
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