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「お姉ちゃん、そういうんじゃないの。残念ながら、ステージが違う」
「ステージって? ああ、モテる人なの?」
「モテるとかそういうんじゃなくて、私が相手をしてもらえるような人ではない。崇拝はするけど恋ではない」
「崇拝とかステージとか、ばっかだな。同じ人間だっていうのに」
お姉ちゃんはいいよ。
ちゃんと唯一無二のパートナーを見つけて、結婚して数年経ってもラブラブで、子ども達の前でも恋人同士みたいに仲良しで憧れる。
一週間前のあの苦い出来事を思い出すが、苦いは苦いのだが、三枝くんのシャツを汚した事件にすり替わっている。
恋か……。
20代も前半ならば、怖いもの知らずで、三枝君のような人に恋心を持てただろうか。
女性を寄せ付けない、女を感じた瞬間に引き潮になってしまう彼に、間違ってもそんな思いは抱かない。嫌われたくはない。
わかっているもの。現実を。
乾いた笑いが出たけれど、三枝君のイメージのブルーのシャツだけは購入した。
「椿? たまには実家に顔出しなね。前の仕事より大分余裕もあるんでしょう?」
「うん。大分どころじゃないよ。週末はちゃんと休めているし」
「それなら良かった。はいこれうちの味噌。それから甘酒も。ちゃんと味噌汁くらい作って飲むんだよ?」
「ありがとう」
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