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声を聴いて安心したのは、私の方だった。
三枝君が心を許していないのはわかっている。けれど電話越しのその声が、私の心に沁み込んでくる。
私がもっとしっかりして、彼にとって心強い存在で、同志の様になれたら良かった。
仕事でもプライベートでも、友人として背中をポンと叩いてあげられるような、強くて優しい人になりたい。
今は遠くても、目指すのは自由。
その日を境に、仕事に対する姿勢が変わったと思う。そして、日々の過ごし方も見つめ直すようになる。
「久住の写真好きだから、よろしく」
それはもう、この上ない賛辞。
「う、くくくくく……」
「なにその笑い、気持ち悪い」
「ああごめん、嬉しくて」
「よくわからんよ、あなたのことは」
「その後大丈夫?」
「うん。なんにも連絡こない。やっぱりあの時、三枝くんが圧をかけてくれたからだと思う。ほんとにありがとうね」
「久住も、結婚したいの?」
「そんなの聞いちゃいけないんだ」
「あーそうか。これセクハラか」
「けど、そうだねぇ。子ども産んで育てたい気持ちもあるしね」
「そうか」
そう言って、何がおかしいのか素敵な横顔で、遠くを見て笑った。
いや、ほんと、これは遠退くわ……。
32歳、遠退いてる場合ではないんだけれど。
うっかりこの人を見慣れてしまうと、結婚どころか彼氏すらできなさそう。
それは、ちょっと困ったな……。
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