5.三枝君が王子たる所以 side K

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 声を聴いて安心したのは、私の方だった。 三枝君が心を許していないのはわかっている。けれど電話越しのその声が、私の心に沁み込んでくる。  私がもっとしっかりして、彼にとって心強い存在で、同志の様になれたら良かった。  仕事でもプライベートでも、友人として背中をポンと叩いてあげられるような、強くて優しい人になりたい。  今は遠くても、目指すのは自由。  その日を境に、仕事に対する姿勢が変わったと思う。そして、日々の過ごし方も見つめ直すようになる。 「久住の写真好きだから、よろしく」  それはもう、この上ない賛辞。 「う、くくくくく……」 「なにその笑い、気持ち悪い」 「ああごめん、嬉しくて」 「よくわからんよ、あなたのことは」 「その後大丈夫?」 「うん。なんにも連絡こない。やっぱりあの時、三枝くんが圧をかけてくれたからだと思う。ほんとにありがとうね」 「久住も、結婚したいの?」 「そんなの聞いちゃいけないんだ」 「あーそうか。これセクハラか」 「けど、そうだねぇ。子ども産んで育てたい気持ちもあるしね」 「そうか」  そう言って、何がおかしいのか素敵な横顔で、遠くを見て笑った。  いや、ほんと、これは遠退くわ……。  32歳、遠退いてる場合ではないんだけれど。  うっかりこの人を見慣れてしまうと、結婚どころか彼氏すらできなさそう。  それは、ちょっと困ったな……。
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