2209人が本棚に入れています
本棚に追加
6.はじまりのキス
「いいじゃん。うん、いいね」
「ほんとに!? あーー緊張した! 良かったー。もう燃え尽きた。これでダメならと思って」
「いやいや、ここからが始まりだから。燃え尽きられても困る」
久住が、ここ最近仕事に燃えている。
彼女が担当したもので、一発でいいと思えたのは、実はこれが初めてだった。
「でも実は、方向性がわからなくて笹尾さんに相談してようやく……というか、最初はもっと独りよがりなデザインでした」
「笹尾に?」
「はい、発想が豊かで、ここの人達は本当にすごいってつくづく……勉強になります!」
「……そうか」
なんか今、笹尾じゃなくて俺に聞けよと言いたくなった。
季節は冬。
雪国に、白い季節が訪れようとしていた。
**
「吉川さーん」
「はーい」
「俺最近なんかちょっと変かなぁ?」
「……変ですねぇ」
「やっぱり変か……。忙し過ぎて頭がおかしくなった、というよりは」
「というよりは、甘いですね、雰囲気が」
甘いというのはよくわからないけれど、
優しくなったと言われることが増えた。
「特に悪い方に変わったわけではないので、問題ありません。大丈夫」
「ああそう。それならいいや」
最初のコメントを投稿しよう!