6.はじまりのキス

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 音山さんには、愛して止まない幼馴染みの恋人がいるそうだ。ここ数年その彼以外は男に見えないらしい。 「はたしかに目の保養というか癒しですけど、ただ格好いい素敵な人だって思うだけですよ。皆が皆三枝さんを好きになるわけでは……ちょっと自意識過剰……あ」 「そんな風に思ってないけどね」   でも自意識過剰、ほんとにその通り。  周りを信じようとせず、ふて腐れていつも斜めから。どれだけたくさん失って、損をしてきただろう。 「三枝さんでも千諒さんでもなく、みなさん三枝王子って呼んでるんですもん。……これからは堂々とそうお呼びしても?」 「それ、いいよって言うと思ってる?」 「いや、ごめんなさい。間違えました」  事務処理能力の高い音山さんは、話してみるとわりと頭の回転の早い、愛嬌のある人だった。  最初の印象が正しいとは限らない。話してみれば容易く、理解し合えることもある。  久住が、いい風を吹かせてくれたと思っている。少なくとも俺にとっては、良いきっかけになった。 「千諒さん、これはどこに運べばいいですか?」 「ああ、そこのテーブルに置いておいて」 「はい」  音山さんとの和解? によって、また少し雰囲気が変わる。  吉川が、嬉しそうに笑っていた。
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