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音山さんには、愛して止まない幼馴染みの恋人がいるそうだ。ここ数年その彼以外は男に見えないらしい。
「三枝王子はたしかに目の保養というか癒しですけど、ただ格好いい素敵な人だって思うだけですよ。皆が皆三枝さんを好きになるわけでは……ちょっと自意識過剰……あ」
「そんな風に思ってないけどね」
でも自意識過剰、ほんとにその通り。
周りを信じようとせず、ふて腐れていつも斜めから。どれだけたくさん失って、損をしてきただろう。
「三枝さんでも千諒さんでもなく、みなさん三枝王子って呼んでるんですもん。……これからは堂々とそうお呼びしても?」
「それ、いいよって言うと思ってる?」
「いや、ごめんなさい。間違えました」
事務処理能力の高い音山さんは、話してみるとわりと頭の回転の早い、愛嬌のある人だった。
最初の印象が正しいとは限らない。話してみれば容易く、理解し合えることもある。
久住が、いい風を吹かせてくれたと思っている。少なくとも俺にとっては、良いきっかけになった。
「千諒さん、これはどこに運べばいいですか?」
「ああ、そこのテーブルに置いておいて」
「はい」
音山さんとの和解? によって、また少し雰囲気が変わる。
吉川が、嬉しそうに笑っていた。
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