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初めてキスをした日、まだ朧気だったお互いの気持ちを確認し合ったあの日の夜、そのままの勢いで結ばれるという展開にはならなかった。
「──あ、やばい。ここオフィスだった」
散々、久々に再会した恋人同士のような時間を堪能した後、我に返る。
「三枝君、出張帰りでお疲れなのに」
「はー、大丈夫。満たされた」
「ぐ……」
久住はまだ俺の腕に捕まえられたまま。
少しとろんとしているけれど、逃げようとモソモソ動いているので仕方なく解放する。
「久住も会いたかったでしょ? 俺に」
ほら、会いたかったと言えーと言いながら、片手で両頬を挟みぶにっと潰す。思いっきり顔を逸らされる。
「なに?」
「今わたし、女の顔してると思うから見られたくない」
「女の顔? ダメなの?」
「ダメ。嫌われたくない」
「……よくわからんけど、好きだって言ってんじゃん。それより久住さんさ、あなたなんか煙草の匂いするな、微かに。今日何してた?」
「え?」
分かり易い。
あからさまにギクッとするんじゃない。
「誰か、いるの?」
「そんなわけないじゃん。……違う。やましいことは何もないけど……って、なんで言い訳してるんだ」
「それで?」
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