最終章 二人のキーノート

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 いつの間にか、心に入り込んだ不可思議なもの。いると安心するし、穏やかに笑える。 「この間やっと岡部に言ったよ。わざわざ電話したことなんかないからびっくりしてた」 「なんて言ってた?」 「俺、キューピッドじゃね~? って」 「そうだね、間違いではない」 「キューピッドどころか罠としか思えない。あいつが仕掛けた」 「あはは」 「椿」 「ん?」 「家の中でならいいよ、その服」 「オッケー、じゃあそうする~」  そう言うと、すぐに機嫌が直る単純さも好きだ。  二人の、二人だけの小さな約束が、共通の大切なものが、少しずつ増えていく。  なにも減らすつもりはない。  それはもちろん彼女自身にも、そうして欲しいと思っている。  懐かしい、油絵の具の匂いと、傍らには一眼レフの古いカメラ。 「部屋いっぱいあるんだから、ここに住めば? そしたらここ、あなたの部室(ぶしつ)にしていいから。」 「部室(ぶしつ)!? それいいね」  返事はないが、目を輝かせて何か構想を練っている。〝一緒に住む〟がセットなんだけど、わかっていますか?  無邪気に笑う椿の横顔を、心から愛しいと思った。 「愛してる」なんて口に出したこともないけれど、それを言われた時の椿の顔を想像したらまた抱きしめたくなり、言わずにはいられなくなり、  真剣にカメラをいじっている椿に向かって、そろりそろりと、近付いて行った。 END
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