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住民と賭博と
気が付かれるかどうか、それがこのゲームの醍醐味だ。
運を頼りに勝負を仕掛けるような奴は二流。勝敗はどれだけ相手を騙せるかで決まる。もっとも、偉そうに言えるほど、俺はこのゲームに強くはないけどな。
「二枚だ」
銅貨五枚に続けて手札を二枚放り、山札から二枚を引く。
「四枚」
順番が回り、左に座るフードを目深にかぶった男が銅貨を出して、手札を交換していく。
これで一周した。掛け金をつり上げる声もなし。後は勝負するだけだ。
「拝見」
一斉に手札を開く。
無役の「ブタ」。一階級の「平民一揆」が二人。
このゲームは3階級の「軍隊」を作り上げた俺の勝ち。テーブルに投げ出されていた銅貨をごっそりと掴み、袋に入れる。
掴み損ねた銅貨を拾って抱きかかえたルネが、虹色の羽をひらひらさせながら飛んできた。
「わーまた勝ったねー。ミツバチすごーい!」
あんまり大声でその名を呼ぶな。俺の姿に似合ってねーんだ。
ミツバチってのはルネが付けたあだ名だが、どうして身長200エタ(約200センチ)近く、体重140フィー(約140キログラム)の俺にそんな名を付けたんだか。
むしろミツバチにならルネの方が近い。なにせ身長は20エタあるかないかのフェアリーなのだから。
袋の中に体ごと突っ込んでいったルネ。袋をのぞき込むと金銀銅に照らし出されたルネが、銀貨を抱えてニコッと笑う。こいつはなぜか金貨より銀貨を好む。ちなみに金貨は銀貨の10倍の価値で、銀貨の10分の1が銅貨。100分の1が石貨だが、ここには入っていない。
まぁ、金を必要としないフェアリーだから、色の好み以外に貨幣価値を見ていないのかもしれない。
そんな俺たちを憎々しげに見ていた正面の男が、ドンとテーブルを叩いた。
「次だ!!」
男が散らばった札をかき集めて適当に混ぜ始める。よけいな話だがこのゲームは集中を切らした方が負ける。まぁ、どちらにしろ結果は見えているのだから、本当によけいな話だ。
このゲームの名は「十七」
絵柄の付いた札を使う有名なゲームだ。5枚の札で17階級ある役を作り上げる。一番高い階級の役を作った奴が勝ちというルール。
一見運任せのようだが、そうじゃない。
掛け金をつり上げることと、ゲームから降りることが自由に出来る。
手札がいい時だけ掛け金をつり上げても、周りがゲームを降りてしまえば手取りは少なくなる。逆に手札が悪いからと言って、ゲームを降りているといつまで経っても勝てない。高い役なんか滅多に揃うものではないのだから。
じゃあどうすればいいか。
もうわかるだろう? ハッタリをかます。これしかない。
どれだけ「無役」を高いの役だと思わせて相手をゲームから降ろさせるか。
逆に高い勝負役を「草(低階級の役の総称)」と思わせて最後まで乗せさせるか。
ちなみに。「草」だと思いこみ勝負を仕掛けるも、相手の手札は高階級で返り討ちにあう間抜けの事を、突っ込んでくる「ブタ」という意味で「イノシシ」という。また、「草」である事を相手に読ませずに、全員を降ろさせることを「草を喰わせる」と言う。
こんな言葉が慣用句として広く知られていることから見ても、このゲームが古くからあることがわかるだろう。
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