住民と賭博と

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  「銀貨五枚、乗せようかいの」  ゲームは続いている。  参加しているのは俺を含め、ルネを外して四人。  俺の左に座るのが、フードを目深にかぶった『自称』古美術商で年齢不詳の男。  正面が『自称』賭博師の若い男。  右隣が『自称』隠居のじいさん。  そして、体格が大きすぎて通路側に座れず、壁に背を預けている旅人の俺。隣に大斧を置いているので、二人分以上のスペースを使う。テーブルに座るときは、いつも気を使う。  俺を含め、どいつもこいつも癖のありそうな奴らだ。  今の声、最初に掛け金を銀貨三枚に設定したうえ、さらにつり上げて銀貨をせしめようとしているのが右のじいさん。 「降りる」  手札を全部、テーブルに放る。参加料分損をするが、この手札を取っ替え引っ替えしても役が立つとは思えない。  それに、今日は順調に勝っている。焦ることはないのだ。  順番が左に流れる。被ったフードが落とす暗闇の向こうから、鋭い目つきを老人に投げるフード男。それを、ニヤニヤしながら正面から受け止める老人。  老人の表情から何を読んだのか、くつくつとフードが揺れる。 「1枚交換だ」  銀貨を五枚出して、札を一枚交換する。 「……クソ! 4枚だ」  正面の若い奴が銀貨と札4枚を叩きつける。この男、賭博師を名乗る割に表情が面に出やすい。結局一番負けが込み、後に引けなくなっている。  勝負を下りたことで気が抜けた。イスを軋ませながら、固まった背中をうんとのばす。  大きな笑い声につられてそちらをみると、顔を赤くした連中がやいのやいのと騒いでいる。宴もたけなわ、といったところ。  日が沈んで大分経つが、宿の食事処にはまだ結構人が残っている。  この町には今朝着いたが、聞いていたより大きな町だった。どの国に行ってもそうだが、町が大きくなるほど夜は遠くなるものだ。 「えへへー」  緩い笑い声がテーブルの上の麻袋から聞こえる。袋の口を開けると、中ではルネが金銀に浸かっていた。  今日はいっぱい勝ったねーなんて言いながら、袋から飛び出してくる。 「そうだな」  顔の周りをパタパタと飛び回るルネに、気のない返事を返す。  今日はいつになく勝っている。普段はこんなに調子良くは勝てない。どちらかと言えば負けることが多いので、滅多にでかい勝負には出ないのだが、流れに任せているうちに金貨10枚分ぐらいは稼いでしまった。  「ねえねえ、ルネお洋服がほしいなー」  「まあ、それぐらいなら」  買ってやっても問題ない。何せこいつに合うサイズの服なんかこの国では売ってないので、綺麗な色のハンカチを体に巻いているだけだ。何枚買っても大した額にはならない。  問題があるとすれば、この金の使い道ではなく、この金が俺のところに集まってくる理由。  「ほれ、おまえさんの番だ」  銀貨を片手に持って急かすじいさんから、札の山を受け取る。札は綺麗に整えられていた。さっき、じいさんが気のない感じで札を切っていたのを見ているわけだが……。  この札の山は切り直すべきか、このまま配るべきか。  「早く配れよ。よろま」  正面の奴からせっつかれたので、このまま配ることにした。
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