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香る唇
「なんかいい匂いする」
ミユキが鼻を鳴らしながら抱き付いてくるのを見ながら、私は「またか」と思った。
ミユキがこちらに抱き付きながら何かを言う時は、構ってほしい、のサインだ。
それに付随する言葉で、何を欲しがるのかを察するのかが私の役目、というわけだ。
「リップ変えたからね」
私がそう言うと、ミユキは目を輝かせる。
「いいなー。私もそれ欲しいなぁ」
遠回しに『同じ物を持ちたい』と言っているようだ。けれど、それは出来ない。
付き合っているのがバレたら、私たちはクラスから……いや、学校中から拒絶される。そして、その後は攻撃される。
同性が付き合うというのは、それも孕んでいる。大っぴらに言えればいいが、私にはそんな勇気は無い。多分、ミユキにも無いだろう。
「だから、同じ物持ってたら怪しまれるからダメだって」
「違うもん、それが欲しいんだもん」
「はぁ……だから同じ物はダメ。もう、それなら私の持ってるこれをあげる……」
「違うの、欲しいのは」
ミユキはそう言って私の唇に自分の唇を重ねた。
「唇に付いてるヤツだもん」
不意のキスに驚きながらも、私は彼女にチョップをした。
「痛い」
「痛いのはアンタの行動。周りに人がいたらどうすんの?」
「ごめん」
「もういいよ。したかったんでしょ、キス」
「……うん」
頬を染める彼女をそれ以上攻めることが出来ない。
これが増長させる原因か、なんて思いながら私は耳元で囁いた。
「今日、ウチでまたしてあげるから」
さっき、自分からキスをしたくせに、顔を真っ赤にしながら彼女は頷いた。
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