インソムニア

1/1
前へ
/137ページ
次へ

インソムニア

 彼女のすべすべの手、それに触れるだけで私はドキドキしてしまう。 「ねえ、ちゃんと手を握っていてね」  ベッドに横たわる彼女のその言葉に、適当に返事をすると、強く手を握られた。 「ちゃんと、返事してよ」  暗闇に目が慣れ、その瞳がこちらを見ているのがわかる。  満月の様なその瞳を見ながら、私は「はいはい」とだけ答えた。 「そうやって誤魔化してもダメだからね!みっちゃん、三日前に自分から『寝る時、ずっと手を握っていてあげる』って言ったんだから!」 「そうだけどさ」 「言い訳はダメ!今日はこのまま寝てもらうよ」 「え~……」 「はい、おやすみ!」 「えー……」 「ちゃんと『おやすみ』って言って!」 「……おやすみ」  私の手を両手で握りながら、彼女は瞳を閉じた。  仰向けに寝て、暗闇の中にぼんやりと見える天井の木目を視線でなぞる。  シンとした部屋の中、聞こえるのは、自分の心音。  彼女のすべすべの手、それに触れるだけでドキドキしてしまう私は、多分今日も眠れない。  幸せそうに隣で寝息を立てている彼女に、ちょっとだけ腹が立ったので、頬を指でぐりぐりとしてやった。  その柔らかさがまたかわいくて、私の心音は二倍になった。  私はバカだ。  多分、今日は昨日以上に眠れない。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加