目を閉じてキスをして

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目を閉じてキスをして

 私は彼女とキスをする時、目を開けてキスをする。  幸せそうに唇を当てながら、感覚を全てそこに集中させている様な表情を間近で楽しめるのは、この世で私一人だけ。  だけど。 「ねえ、なんでキスの時に目を開けているの?」  そう言われた時は、心臓が止まるかと思った。  彼女が目を閉じているのは間違いが無い筈。だけど、それがバレたのはなんでだろうか。  表情を崩さないように『そんなわけないよ』と言うと、彼女は微笑んだ。 「どうしてバレたの?って顔してるね」 「バレるもなにも、目は閉じてるよ」 「ふーん……じゃあ、目を開けていると仮定して、一個だけアドバイス」 「なに?」 「目を閉じると、気持ちいいよ。だって、感覚が唇だけになるからね」 「なに、それ」 「さ、いいから、しよっか」 「何を?」 「キス」  彼女はそう言って、私の目を手で隠してから唇を合わせた。  今までにないぐらいの感覚が、唇から伝わる。  温もり、柔らかさ。  感覚を通して、暗闇の中にぼんやりと彼女が浮かび上がり、体の中に入ってくる。  一つに溶けあうような感覚に襲われながら、私は体を小刻みに震えさせる。  口の横から溢れる涎が、顎を伝って落ちていく。優しくなぞる涎は、顎を愛撫しているかのようだ。 「ほらね、凄いでしょ?」  私の顎を両手で持ちながら、唇を離して彼女は笑う。 「バカ」  素直になれず、悪態をついたが、彼女はニヤニヤ笑うだけだった。 「気持ち良かったでしょ?」  彼女の言葉に頷きながらも、私は「もうしない」と伝えてスタスタと歩き始める。  後ろから、謝りながら追いかけてくる彼女。  自分の唇に指を当てる。  だって、あんなキスを何度もしたら……私、唇だけじゃ満足できなくなるもの……。
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