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 睡蓮を描きたいと思って、夏休みの間に学校の近くにある太田公園に足を運んで、父親から借りたデジカメで何百枚も睡蓮の写真を撮った。構図や、睡蓮の位置を考えたのに、何かが足りなくて、未だにキャンバスは真っ白なままだ。スケッチブックに描かれた睡蓮の位置は、夏休みの日数よりも多いぐらいだが、未だに決定的なモノが出来ていなかった。  利香はスケッチブックを広げ、今まで描いたラフ画をチェックし始めた。  ここで、普通ならばお調子者の男子が寄って来るか、噂好きの女子が近寄ってきて『何をしてるの』と言ってくるのが一般的だが、この二年B組の教室内では、それがなかった。  利香が『近寄るな』というオーラを放っていることもあったが、一年前に利香が今回と同じようにスケッチブックを広げていた際に、男子が勝手にスケッチブックを取り上げたことを罵ったのを、全員が知っているのだ。  利香は、この教室で浮いていた。
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