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教室に帰ってきたのはいいが、この後の作業は特に何も指示されておらず、教室内の誰もが手持無沙汰になり、ガヤガヤとしだした頃に、丁度チャイムが鳴った。
夏休み中も美術室に通っていたのに、チャイムの音を聞くのは初めてだった。確か、前の出校日は鳴っていたような気がする。
そうか、夏休み中は鐘も休むのか。
始まりと終わりを告げる鐘。自分達はそれを聞いて行動をしている。気付かないうちに、もう何年も。
社会人になったら、こんな風に鐘が鳴るのだろうか。そういえば、両親にそんなことを聞いたことは無かった。
もし、鐘が鳴るとしたら、それはなんだか嫌だった。
鐘を鳴らされたら餌を出してもらえると思って尻尾を振りながら涎を垂らす、あの犬みたいに思えるからだ。
考えを巡らせていると、一人二人と席を立って、おしゃべりを始めている。
担任がいないのなら、鐘も鳴ったのだし、自由に行動していいのだろう。
誰かがそう言ったわけではないが、そんな考えが教室内の公然とした事実になっていた。
特に何もすることが無い利香は、その場でため息をつく。
壁にかかっている時計で時間を確認する。
秒針の進みの遅さに、少し苛立ちを覚えながら、取敢えずこの無駄な時間を利用する為にスケッチブックを開こうと決めたその時だった。
時計の近くにいた、このクラスの委員長である桜澤(さくらざわ)彩音(あやね)の姿が視界に入ってきた。
色が雪みたいに白くて、小さな女の子。かけている眼鏡が黒縁で、少し大き目の所為か、やたらと真面目に見えて、初対面の人でも『委員長』と言いそうなイメージがあった。
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