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ご指名ありがとうごさいます
「待ち合わせをしてるので、鍵を開けてもらっていいですか?」
電話の向こうの相手にそう伝えると、『確認しますので、少々お待ち下さい。』と、いつものように言葉を返される。
私はとくに返事をすることなく、壁に設置されている電話機に受話器を戻した。
これで、数秒後に電話機のすぐ側にあるドアの鍵が解除されるはず。
変わりないいつもの流れ。
鍵が開くそれまでの間、私はくるりと身を翻し、そこに停められている車に目をやった。
一台しか停められない造りの空間に停められている、ごくごく普通の一台の車。
見たことのない車だから、私にとって新顔さんかな。
変な高級外車や、妙に遊び心満載な車じゃないから、今からの相手は、普通の人というところか。
車から年齢まではわからないが、チャイルドシートはついてないので、小さな子どもはいないのだろう。
女性の好みそうな小物のたぐいも車の中には見当たらないので、彼女もいないのかもしれない。
車の中は散らかっておらず、キレイにされている。
……今からの相手は、まぁ、まともな人だったらいいな。
やはり他人を相手にするので合う合わないもあるし、中には常識のない人もいる。
駐車スペースの入り口にかかっている分厚いナイロンのカーテン。
外からは誰が入ってるのかわからないよう、駐車スペースの上から下、右から左にきっちりと掛けられている。
……この造りの駐車場、しっかりと掛けられているカーテン、鍵のかかったドア。
ごくごく一般的な、定番のラブホテルの造りだ。
そんな事を考えていると、カチャンと無機質な鍵を開錠した音が小さな空間に響く。
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