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……さぁ、お仕事開始ね。
あたしはメニュー表にローション、タイマー、うがい薬、他にも細々した仕事道具が入った少し大きめのバックの持ち手をきゅっと握り締めた。
鍵の開いたドアに手をかけ、少し重いドアを開く。
ドアの開いたすぐそこには、少し使い込まれた若者から壮年の方が好みそうな、メーカーもののスニーカー。
……こういうものを履くということは、おそらく高齢の人ではないな。
比較的若い人か、壮年と呼ばれる世代の人か。
……高齢のおじいちゃん相手するよりはぜんぜんヨイヨイ。
私はパンプスを脱ぎ、そろえて置いて備え付けのスリッパに足を通す。
二階に続く階段を見上げ、あたしはゆっくりと二階へ足を進めた。
階段を上がると、そこには先ほどと同じようなドア。
コンコンコン
ノックを三回。
この時点で相手によっては『はい』と返答があったりなかったり。
今回の相手からは「どうぞー」という返答。
私好みの低音ヴォイス。
まだ相手を見てないけど、その声だけで少し期待が膨らむ。
どうせ相手をするならば、やはり少しでも自分の好みに近い人がいい。
……まぁ、期待をすれば裏切られることが多いので、ここは期待せず仕事をしよう。
私はためらうことなくドアを開いた。
明るすぎず暗すぎない照明。
穏やかなベージュを基調とした部屋の内装。
入ってすぐ目に入る壁に設置されている自動料金精算機。
入室してすぐ部屋全体が見えないよううまいこと設置されている壁。
この壁の向こう側の室内に、今からあたしとそういうことをする相手がいる。
この瞬間は、いつもわずかに緊張してしまう。
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