隠し事はキャラメル風味

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隠し事はキャラメル風味

「私には隠し事があります。でもお願い、なにも気づかないふりをしていて!」 「え?」  彼女は目を瞬いて上目遣いに私を見た。  放課後の美術室に二人だけ。黄昏のキャラメル色に包まれて、絵の具のつんとした匂いが肺いっぱいに満ちる。私はこの時間、唯一の美術部員である彼女の作業をみている時間が好きだった――ちなみに美術部は七人だが、他六名は幽霊部員でたまにしか出会わない――。 「急にどうしたの、なっちゃん」 「だから、私にはアズサにどうしても隠しておきたいことがあるの。だけど隠していたってアズサには絶対ばれちゃうから、あえて先手を打っておこうと思って。ねえ、お願い。今回だけは私の心を読まないで」  ぱちんと顔の前で手をあわせると、アズサは困ったような顔をして目をふせた。 *****  あやかし憑きという、ちょっとだけ変わった人たちがいる。  人だけど、あやかしの力をもってうまれた人たち。  鬼憑きは破壊的な強さをもった肉体を、天狗憑きは空を飛ぶ大きな翼を、河童憑きは水の中で自由に呼吸ができる体をもっている。  私は美術室のぐらぐら足の高さがあわない椅子に揺れながら唇をとがらせた。 「だってアズサ、今言っておかないとサトリの力で心を読んでくるでしょう」 「読まないよ」  アズサは眉を寄せて、胸の前で手をぎゅっと握った。  彼女はサトリ憑きだ。  サトリというあやかしは人の心を読むことができるらしい。相手の考えをぽんぽん見抜いて、人が驚いている隙を見つけると取って喰ってしまう、そんなあやかしだ。  アズサは人の考えていることがすぐに分かる。まるで他人の思考が彼女の手の内にあるように、なんでも言い当てることができるのだ。 「アズサの力はすごいけど、今回は本当に駄目なの。お願い!」  アズサは眉を寄せて、私の制服のリボンあたりに視線を落とした。
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