初恋

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初恋

 夕闇の下は禍々しく、心を荒らします。日が重なるごとに暗さは増し、私を守っていた光も早く落ちるようになりました。  それでも暗闇とは程遠いから大丈夫だ――そう自らを落ち着かせ、今日も平然を装います。  ですが、やはり気配は遣ってきました。視線に捕らわれる感覚が背中を刺します。  接触を受けて以降、直接的な攻撃はありません。しかし、毎日危機に晒されていると、心が疲弊するのでしょう。私の精神は脆くなっていました。  きっと、もう一度何かされたら砕けてしまうでしょう。  ふと、感じていた気配が濃くなる感覚を覚えました。ですが、怖さが体を縛り、足を早めることも振り向くことも出来ません。  ただ、何もありませんようにと祈ることしか――。 「大丈夫?」  日溜まりのような声が聞こえ、体の鎖が突然解けました。思わず振り向いた先には、クラスメイトの日永くんが立っていました。  初めて他者に声をかけられた感動はよそに、助けが来たことへの嬉しさで勝手に瞳が潤みます。 「……関口さん、今付けられてた……よね?」  私の瞳を見てから、日永君は辺りを軽く警戒します。ですが、誰もいなかったのか、浅く首を傾げていました。  私を纏っていた視線も、いつの間にか消えています。  怯えきっていた私が明確な返事を出せる訳もなく、その場はただ首肯で回答しました。  その様子を見兼ねたのでしょう。日永くんは、眉をややハの字に下げて一言、 「怖かったね」  と言ってくれました。  その瞬間、心に初めての感情が芽生えました。それが何か判断するのに、時間は要りませんでした。    私は、日永くんが好きになりました。そう、芽生えたのは恋でした。
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