10.あれから

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クシクシとコートの裾で顔を擦り、涙を拭っている様はまるで小動物だ。 「……可愛い」 口は災いの元。零れ落ちた言葉を回収できる術はない。 「え? ……オジサン、マジで変な人じゃないよね?」 彼女は引き攣った顔で鞄からスマホを取り出した。 通話画面を開き、1、1、と——。 「あっ、いや、違うんだ! これは……っ!」 通報されるっ! 「あっははははは! 面白いねオジサン! 通報なんかしないってば。でも……さっきの顔……マジで必死すぎて……あははは!」 体をくの字に曲げ、笑い倒している彼女。 なんなんだこいつは。 俺をおちょくっているのか? まごついていた俺はだんだん腹が立ってきた。 大人げないとは思うが、不愉快な感情が隠しきれない。 それを見て彼女は笑うのを止めた。 「ごめんごめん。ついね…………。でもオジサンに声掛けられたの初めてだよ」 彼女が口元を隠してふふっと笑う動作に一々魅入ってしまう。 「これも何かの縁だし、自己紹介でもしよっか! ……じゃ、まずはオジサンから」 「俺?」 「そっ。最初に話しかけてきたのはオジサンなんだから、オジサンから名乗るのが礼儀でしょ?」 まあそれもそうか。 だが苛立ちを忘れたわけではない。 オジサンオジサン煩い奴だ。
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