記憶の断片

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記憶の断片

「例えばAという出来事の記憶、Bという出来事の記憶、Cという出来事の記憶が有ったとしよう。最初は整然と記憶が並んでいるんだ」  そう言うと彼は、黒のボールペンでメモ用紙に次のように書いた。 A(aaaaa) B(bbbbb) C(ccccc) 「こんな具合にね。でも時が経つにつれて記憶というものは薄れていく」  そう言うと彼は、今度は次のように書いた。 A(a aaa) B(bb bb) C(c c c) 「こんな具合にね。君に限らず人は時間の経過とともに記憶を落としていってるんだ。ある出来事の一部分だけが思い出せない。これはそんな状態だね。そしてもっと記憶が古くなると」  彼はメモ用紙にさらに次のように書いた。 A(ababc) B(bbcab) C(     )  彼が言うには、人はどんどん記憶を落としていって、古い記憶の隙間に別の記憶が入り込んで酷く曖昧なものになり、ある記憶に至っては全く無くなってしまうのだそうだ。 「つまりね、古くなった記憶は断片化してしまうということなんだ」
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