どうやら私、当事者になったようです

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どうやら私、当事者になったようです

昨今、巷を賑わすのは、ある身分違いの恋物語。 カフェで働く平民の少女が、お忍びで訪れた有力貴族の子息に見初められたという、王道も王道のシンデレラストーリーである。 これが、小説や演劇という単なるフィクションならば、皆と同じく胸をときめかせていただろう。 年頃の娘らしく。 夢みたいなことが自分にも起きるのでは、と。 「これに署名しろ」 「っ! ありがとうございますっ!」 実際、起きたと思う。 全然違う意味で。 全く望んでいない配役として。 ベルはだだっ広い豪奢な部屋から庭園を眺めていた。 庭師によって整備された花々は、晴れ渡る空の下で優雅に咲き誇り、見る人の心に癒しを運ぶだろうと。 ……たぶん、きっと。ベル以外には。 ああ、虫が来る時間か。 花に紛れ楽しそうな二対の笑い声が耳に届く。 窓を隔てた向こうで寄り添い歩く美男美女、もとい虫どもだ。 死んだ魚のような目をしている自覚はある。 ついでに言えば、とんでもない勘違いをしてしまったあの日の出来事を心底悔やんでいたりする。 が、それ以上にベルの心で燃え盛るのは。 どうやって報復するべきか、という激しい怒りであった。 話しはひと月前に遡る。 家の事情で仕事も碌にない田舎から、遠路はるばる王都に出稼ぎにやって来たベルは、厳しい現実を目の当たりにしていた。 仕事がない。 というか、誰も雇ってくれないのだ。 面接の段階からおかしかった。 上から下までじろじろ見られ、話も聞かれず、あまつさえ鼻で笑われ不採用。 なんなら顔を見た瞬間、帰れと来たもんだ。 なぜ? 王都の人間は顔で雇用を決めるのか、と思っていたら。 ベルに舌打ちをかまし、ものの数秒で面接を切り上げた店主の親父が、次に現れたボインボインなお胸の美女を即採用した理由で気付く。 「君の美貌と身体なら貴族のお坊ちゃんも虜になるだろう。期待してるよ」 「ふふふ。任せて下さい。店の評判も売上げも、玉の輿に乗る為なら手段を選びませんわ!」 盛り上がる2人は、例のシンデレラストーリーに感化されたらしい。よほど自信があるのか、貴族の奥様になったら出会いを提供してくれたこの店に融資する、などと具体的なプランまで話し込んでいた。 ……アホくさ。  村で唯一の酒場で働いていた経験を活かし、その手の店に仕事を求めた結果がコレである。 美人じゃなくて悪かったな! 早々に見切りをつけたベルは、方向転換とばかりに裏方の仕事、つまり洗濯女でも飯炊き女でもいいと、目についた屋敷の門番に声をかけたのだ。
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