後日談 ベルによる王への報復

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ベルは慎重に機会を伺っていた。 やり過ぎたら不敬罪であの世行き、かと言って何もしなければ腹の虫は収まらない。 案は既にある。 経緯や思惑はどうあれ、王様は前々回のパーティーでベルを愛妾に望んだことがあった。 それを逆手に取り、ベル自らが王様に擦り寄りシャルリーナ様にやきもちを焼かせようと思っているのだ。 実際に愛妾にされる気はないので匙加減は必要だけど、有難いことにベルには女狐アマリアという媚び全開の見本を知っている。全開を半開ぐらいにしたらいいだろうと気楽に考えていた。 そして、その案を実行する場は割と早く訪れる。 可愛い妹達が目を付けたのは、ベルが賜った子爵位に釣り合う家格の貴族。高望みしないのかと思っていたら、どうやら容姿と金を重視したようだ。王宮に勤める大人な男性に将来の息子像を重ねて選んだだけあって、父たる男性はザハルに負けず劣らずの美形らしい。 ザハルを通して先方には打診済み。 両親の居ない妹達の後見人として、ザハルとベルは今日の夜会で互いの顔合わせをする段取りだ。 つまりベルは、妹達の婚約を取り付けたら貴族同士の綿密な擦り合わせはザハルに任せ、王様とイチャイチャしよう作戦を掲げていた。 問題はどうやってやきもち焼きのザハルの目を掻い潜り王様に近付くか、であるが、何と向こうからやって来てくれた。 「ザハルとダンスは済んだろう。次は私の相手をしてくれぬか」 「はい! よろこ、」 「ダメです。今日は大切な身内の婚約内定の場。実の姉であるベルも話に加わるべきだ」 王様の手を取る前にザハルの待ったがかかる。 正論なので黙るしかないベルに、王様はこともなげに言った。 「お前は愛する妻の身内の為、婚約を確定にしていたはずだ。後の詳細は貴族に成り立ての奥方がいなくても出来るはず。ザハルよ、妻を愛するなら夜会を楽しませてやるのも夫の甲斐性じゃないのか」 王様の方が上手らしい。 反論の出ないザハルが縋るようにベルを見たが、仕返しする気満々のベルは気付かなかった。それどころか、ザハルの無言を是と受け取り、女狐アマリア仕込みの媚びった表情で王様と二人でダンスボールに足を向けたのだ。 ベルは甘く見ていた。 ザハルの募り募った恋情を。 ベルはもう気にもしてないが、ザハルは初めに失敗している。暴言も酷い態度もなかった事に出来ないのだ。それが余計にベルを取られるんじゃないかという焦りを生み、激しい嫉妬を呼び起こしていた。 もう一つ。 ベルは平民気質のまま、とんだ思い違いをしている。 シャルリーナが王様に嫁ぐ時点で王様には何人もの側室や愛妾がいたのだ。 今更ベル如きが媚びろうが親しくしようが嫉妬などしない。万が一召し上げられようものなら排除するのみ、という貴族ならではな考えしかなかった。 ベルは忘れている。 王様が愛妾にしたいと言った時、自分に向けられた殺意の篭った視線を。
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