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時刻は17時半。
俺たちは束の間の自由行動を終え、宿にいた。
結局あの後せっかく来たんだからと金閣寺も銀閣寺も回った。おかげでかなり疲れた。それは隣の橘も同じようだった。
そんな俺たちを見て峯岸が「2人ラブラブじゃーん」と茶々を入れてくるのを優等生スマイルで華麗に受け流す。
「かなめくんと早くお近づきになりたい...」
そんなことをぼそっと呟く橘に、我慢してね橘くんと声を掛ける恨めしそうな目を向けられた。
「とりあえず各自部屋に移動してくれ、18時になったら夕食だから大広間に集まれよー」
教師の指示を聞いて、生徒たちは移動を始める。
俺たちもその流れに乗って部屋に向かった。
ちなみに望月たちはまだ帰ってこないらしい。
やつに時間を守るという概念はないのだろうか。
部屋に着けば既に先に着いていたクラスメイトたちが鞄を片手に持ったまま話しかけてくる。
「なぁなぁ、高橋と橘寝るのどこがいいー?ちなみに俺真ん中希望!」
「俺はどこでも大丈夫だよ」
「俺はかなめくんの隣ならどこでもいい〜」
「お前らほんと仲良いな。デキてんのかよ」
思わぬクラスメイトの言葉に、橘は「あ、わかる〜?」と本気で照れている。
...おいその反応やめろ、気まずすぎるだろ。
部屋で荷物を整理していればあっという間に夕食の時間になり、大広間に移動した。
「かなめくん!今日の夕食は絶対すき焼きだよ、俺断言する!」
「そうかもしれないね」
...まあ大体そうだよな、俺もそう思うわ。
既に用意されている食事を見れば、やはりすき焼きだった。
修学旅行実行委員が前に立ちなにやら話してから、いただきますと号令がかかるので、みんな豪華な食事を前に嬉々とした様子で食事を始めた。
「おい龍樹、その肉俺にくれよ!!!かわりにしいたけやるからさ!!!」
「えっ、う、うん...」
「ヒカル、それなら俺の肉もやるよ」
「伊吹!!!お前は本当にいいやつだな!!じゃあお前には俺の春菊をやるよ!!!」
...飯くらい静かに食えないのか。
飯の時間だけはきちんと守る望月に相変わらずだなと呆れる。
つーか最近は小島だよ!が不憫に思えてきて仕方がない。まああんな待遇でも望月の近くにいるのは本人の意思だし、ドMかなんかなのかなと適当に考える。
「かなめくん、おいしーね〜」
「うん、そうだね」
ぐつぐつと煮える鍋を見て、本当に修学旅行にきてるんだなと再実感する。
しばらくすれば各クラスの有志で出し物が始まり、1時間半もすればお開きとなった。
...次は風呂だ。めんどくさい。
風呂はいくつかの部屋ごとに時間が決められており、割と時間がない。
部屋のやつに声をかけられ、断る理由もないのでそのまま一緒に大浴場へと向かう。
「橘、なに浮かない顔してんの」
小声でそう話しかければ、かなめくんと初めてのお風呂...と顔を赤らめながら呟かれ、聞くんじゃなかったと後悔した。
脱衣所につきさっさと服を脱ぎ橘に声をかければ、未だにもじもじしていた。
風邪ひいても知らねぇぞり
忙しなく髪や体を洗い、温泉に浸かる。
普段家でもシャワーで済ませてるから、肩までお湯に浸かるのは久々だ。
早く寝る時間になんねーかなとぼーっとしていると、遅れて橘がやってくる。
「かなめくんの裸、恥ずかしくて見れない...」
「そういう意味深なことを言うなよ、意識しなきゃ平気だって」
がやがやしている大浴場の隅で、小声で突っ込む。
「勃ったらどうしよう...」
橘のその言葉に考えすぎだろと思いつつ、のぼせないうちに上がれよと声をかけ先に風呂をあがる。
俺が下を履いて髪をバスタオルで拭いていると、橘がふらふらとやってくる。
「かなめくん、のぼせた...」
「...あほか」
俺が着替えてる最中、橘はずっと俺のことを見てきて落ち着かない。
なんだよ...
「なんかさ、かなめくんって意外と腹筋割れてるよね」
橘の呟きに、ばきばきに割れてる橘に言われてもなと少し微妙な気持ちになる。
「橘くん、とりあえずこれ飲みなね」
そう言って持参していた水のペットボトルを橘に渡し、着替える橘を待つためその辺の椅子に腰掛ける。
あと5分もしないうちに次の部屋のやつらが脱衣所にやってくる。それまでに連れ出さないとな
着替え終えた橘を連れて部屋に戻れば、お前ら遅いよーと声をかけられる。
見れば布団は既に敷かれていた。
21時半になったら点呼を取って、そのまま就寝の予定だ。
俺らの布団は結局、窓際とその隣になっていた。
時間になるまで部屋のやつらと適当に話す。
今日はここ行ってきたとか、土産はこれを買ったとか、ファミレスで時間潰してやったとか、話は尽きなさそうだ。
ふと時計を見れば21時半ちょっと前。
あともう少しで寝れんのかと少し安心する。
すると突然隣の部屋から望月の雄叫びが聞こえてきた。
「俺は真ん中の布団がいいんだよ!!!!端っこなんて地味なやつが行くところだろ!!!」
...まじであいつと同じ部屋になんなくて良かったわ
点呼も終わり、とりあえず電気だけ消しとくかいう話になるのでそうだねと頷いた。
まあ電気さえ消えれば俺の顔もオフれるからこっちのもんだ。
電気を消した後も部屋のやつらは小声で恋話をして盛り上がっているのを横目に、端の布団に潜り込む。
「ねえねえ高橋くんってこの学校に好きなやつとかいないの?」
恋話をしていたクラスメイトに何気なく話しかけられ、俺はいるよとだけ答えた。
えーまじか意外だわと言われ、彼らはまた別の話題へと移っていった。
「...かなめくん、好きな子いるの?」
布団に潜って寝る体制を整えていると、先程の話を聞いていたであろう橘から小声で声をかけられる。
「うん」
「...それって俺だったり〜?」
「そうそう、順也って子」
背中を向けてそう言えば、橘は押し黙った。
その反応こえーからやめろよと心の中で思いつつ目を瞑る。
隣の部屋では相変わらず「枕投げしようぜ!!!!!!!」と望月の声だけが聞こえてきて、本当に色々やべーやつなんだなと改めて思った。
「かなめくん、寝ちゃった〜?」
ふいに橘から声をかけられる。
俺は目を瞑ったまま、寝てねーよと答えると布団の隙間から手を繋がれる。
よく手の位置わかったな
「橘、今日はありがとな」
何気なく俺がそう言えば、橘がこちらこそ、と小さく笑うのが聞こえた。
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