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ーこんな世界、消えてなくなっちゃえばいいのに。水中の気泡のように。
そう言って僕の目の前から消えたあの子。いま、何処にいるのかな?
また逢えるのなら、あの子に言いたいことがあるんだ。
『 。』
ってね。
そういいながら俺に向かって笑いかけてくるアイツ。
狂ってる。だって、お前の言う『あの子』はもうこの世界にいないだろ?
お前は、何を、何を求めているんだよ?お前の愛した『あの子』は………
―――――――――――
ーチュンチュンチュン
「あれ?もう朝か…」
朝日が目に眩しい。なんか、懐かしい夢を見ていたような気がするけど、思い出せねぇ…。ま、夢ってそんなもんだろ。
寝床から出て暦を見る。九月十九日…土曜日。よし、休みだな。
学校がないと喜んでいると、暦に書かれた『お彼岸』の下手な文字が目に入る。
「相変わらずミミズが這い回って干からびたみてぇな字だな。」
笑いながら外に出る。そのまま商店街へと足を進める。
俺は商店街にたった一軒しかない花屋に入り、中を見渡し花束を見繕う。全く変わっていない。こじんまりとしたカウンターもどきに座るおばあちゃんに花束とお金を差し出す。すると、しわだらけの顔を緩ませ行ってらしゃい。あ、ついでに私のお墓もきれいにして来てちょうだい。と見送ってくれる。俺は、この顔が好きだ。相変わらず、季節の行事には厳しい。今年もまた、おはぎをたくさん用意しているんだろう。ちゃっかり何かを要求してくるところも十八年前から変わってない。
爺ちゃんの好きだったおはぎは人がいた為、買えなかったが、日本酒は買えた。酒屋の爺の気前が良く、おまけまでしてもらった。花束と日本酒を持ちながら田んぼの土手を歩く。時折、軽自動車が道を通り過ぎていく。
歩き始めてから五時間。墓場にたどり着く。駐車場には四台の車が止まっていた。中には、花屋のワゴン車もある。線香の香りが鼻を掠める。あちこちですすり泣く声が聞こえる。家族と会えてみんな嬉しそうだ。家族との再会を喜ぶ者たちや墓の掃除をする人達をしり目に目的の場所へと行く。じっちゃんの墓を洗い花束と日本酒を供え線香に火を付ける。そして、もう一つの墓も同じように洗い花束えを供える。
「あ”~終わった~。」
大きく伸びをすると背中からゴキっともボキッとも言えない音が鳴る。その音に少し冷や汗をかきながら帰路につく。あと少しで家に着く。その時ふと思い出す。アイツと約束をしていたことを…。
全力で走る。
あたりが暗くなる前に、約束の場所についた。周りを見渡す。居た。
「遅い。全く。お前には約束を守るという概念はないのか?いつもいつも来るのは日が暮れるぎりぎり。おかげでこっちは来る足音がお前かどうかも怪しくなる。それに……。まあいい。今日は用があったんだ。」
その後、しばらく話し込んでから分かれようとする。結局、アイツの『用』が何だったのかは分からない。踵を返そうとすると、微かな血の臭いが鼻を掠める。アイツの血だ。そう考えた瞬間、俺の視界は暗転した。俺が覚えているのは…
バサッ!
俺は跳ね起きる。汗で、服が肌に張り付く。水浴びをしてから商店街へと足を進める。朝の商店街は騒がしかった。騒がしい理由は一つ。このあたりに住んでいる大富豪の一人息子が行方不明になっただからそうだ。アイツだ。馬鹿でもわかる。お喋りな主婦たちの噂話が耳に入る。
「残念ねぇ。またよぉ。」
「でも、ここ、悪鬼…ナントカが封印された土地なんでしょう?」
「悪鬼・白峯よ。ほら、「大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」って言った鬼」
目を閉じ眼を開く。走馬燈のように様々な場面が流れ全てを思い出す。いや、思い出してしまった。
ーお前は、鬼だ。
違う。
ーお前は、決して、皇にはなれん。
そんなものどうでもいい。
ーお前は、国を亡ぼす。
そんなことしない。
家族に、疎まれ疎外され、遠く離れた異国の地へと流されたことを。
友に裏切られ、その喉から血が噴き出すその瞬間を。
死んでいるのに生きている恐怖を。
鬼となり狂うほどの怒りと絶望に打ちひしがれたことを。
陽の中、この地で幾人の陰陽師に深く深く眠らされ封印されたことを。
封印の中でその身が朽ちてゆくのを。
転生輪廻の輪に入り、何の因果か封印されたこの地に生まれ落ちたことを。
友の字が驚くほど汚くて唖然としたことを。
十五歳の時、交通事故にあい、死者となり全てを忘れてしまったことを。
アイツとの最後の会話を。
血の匂いに惹かれ沸き立つ鬼としての本能を。
「これで、あの子のもとに逝ける。だから、いいよ。僕を食べても。ね、封印されし鬼…白峯。」
そういって微笑んだアイツの顔を。
全て…アイツは…知っていたのか。
閉じていた目を開く。そこには何も存在していなかった。
遠くで、微かに龍の咆哮が聞こえる。さぁ、逝こう。俺の本来行くべき所へ。
あれ?花屋のばあちゃんに酒屋の爺も…。二人もなんだな。なら、一緒に逝こう?
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