第8回 ユージュアル・サスペクツ

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第8回 ユージュアル・サスペクツ

4b5b38f0-204c-454c-8add-2d30abf291ec 1995年・アメリカ映画 監督:ブライアン・シンガー 脚本:クリストファー・マックァリー 出演:スティーヴン・ボールドウィン/ガブリエル・バーン/チャズ・パルミンテリ/ケヴィン・ポラック/ピート・ポスルスウェイト/スージー・エイミス/ケヴィン・スペイシー/ジャンカルロ・エスポジト/ベニチオ・デル・トロ/ダン・ヘダヤ 他 <STORY> カリフォルニア州サンペドロ。ある埠頭にて大爆発が起き、多くの死傷者が出た。生き残ったのは足の不自由な詐欺師と英語を話せないハンガリー人。やがて事件の裏にはカイザー・ソゼという犯罪者が絡んでいる事が判明する。 <感想> ※結末に触れてますので未見の方にとってはネタバレになります。ご注意下さい※ 本作は劇場公開時に観に行きました。ミニシアター系の公開なのにCMで何度も宣伝されるなど、かなり話題になっていたのを覚えてます。この映画ほど当時観といて良かったと思う作品はありません。今観たら、犯人バレバレと思っちゃうから(笑) 今でこそ大スターのケヴィン・スペイシーですが、当時は本作と『セブン』が公開されるまでほぼ無名に近かったので「この人誰?」状態。主要人物5人のうち一般的に知名度あったのはキートン役のガブリエル・バーンくらいであとは知る人ぞ知るというレベルでした。だからこそラストのどんでん返しには目ん玉ひん剥くほどにぶったまげる事が出来たのです。 293babe8-0521-4b78-be0e-c2e42deaf607↑主演の一人、ガブリエル・バーン 6bef1d37-b6df-4e09-bb11-ca1b3b4e6878↑ご存知、ケヴィン・スペイシー お恥ずかしながら初見時はケヴィン・スペイシー扮するキントを怪しいとは露ほども思わず、最初に退場したフェンスター(ベニチオ・デル・トロ)が怪しいと踏んでました。死んでるのはで実は生きてるんだろ、って頓珍漢な推理をしたのは黒歴史です。 そんなおかしな推理をしてた中学生時代の僕でも「キートンがカイザー・ソゼだ!」とクイヤンが言い出した時は「強引な推理だな」と思ったものです。何をどうやったら『キートン=ソゼ』になるのか、今見直してもよく分からない。ラストのどんでん返しに向けて無理矢理ミスリードさせているといった感じが強いです。が、シンガー監督はこの強引なミスリードによって観客ではなくキントを納得させる事で押し切ります。並みの監督だったら「流石にキートンがソゼだと思う人はいないだろ」と細かく悩むでしょう。そこを力技でねじ伏せた監督の演出力は脱帽です。 嘘の回想を映像として見せる作劇はぶっちゃけ反則です。夢オチと同じ位、ミステリーにおいてはやっちゃいけない事だと個人的には思います。本来なら総スカン食らってもおかしくないんですが、皆さんご存知の様に本作は高い評価を受けました。それは反則級の結末に対して不快感を感じさせない監督の演出力の巧さに起因していると思います。 嘘の回想を映像化するというワンアイデアに絞って、それ以外の要素は基本に則って真面目にやってます。敢えてそうしてるんでしょう。そうする事で「今までのは全部嘘だった」というラストの種明かしが際立つと同時に、スッと納得させられてしまう。100人中100人が同じ様に驚いてくれるとは限らないけど、大多数が驚いてくれればそれでよしとした監督の思い切りの良い演出。それが成功の大きな要因になってるんじゃないでしょうか。 そして、この映画の企画を受け止めて映像化しようと決めたプロデューサーの嗅覚も評価すべきでしょう。今でこそ語り継がれる名作と言われてますが、当時のブライアン・シンガーは『パブリック・アクセス』で長編デビューした実績のみのド新人監督。成功するかどうかは賭けでしかありませんでした(まあ、これはメジャー映画でもそうですが)。 多くのメジャースタジオはこのシナリオを持ち込まれても「売れる訳ない」と拒否したのではないでしょうか。主要人物が男だらけ、そしてほぼ全員犯罪者。お色気要素なし、監督も脚本家も大ヒット作の実績なし。経営者の目線から見たらこんな危なっかしい企画が売れる訳ないと思うでしょう。そんな中「この映画は絶対にウケる!」と信じて企画に乗ったプロデューサーの決断力はもっと評価してもいいと思いますね。 ただ、この映画の企画を拒否した人たちの決断は悪い事ではないし、決して責めるべきではない。僕たちはこの映画の良さをもう知ってるから「見る目がないなー」なんて呑気に言えるかもしれません。しかし、頭まっさらにしてみましょう。このシナリオ持ち込まれて「これを映画化するからお金くれ」って言われて直ぐにお金出せるでしょうか?僕は出せないと思います(笑) キャスティングの話になりますが、スティーヴン・ボールドウィンが演じたマクマナスは当初『ターミネーター』『エイリアン2』のマイケル・ビーンにオファーがいきました。 48423c85-d58a-47d0-a9bd-9de537176d86↑こちらがスティーヴン・ボールドウィン。 624eb5e8-ecf2-4d0c-ac73-39bf33d112d6↑『エイリアン2』の時の勇ましいマイケル・ビーン 同時期製作のサスペンス映画『ジェイド』があったのでマイケルはオファーを断りました。 前述した売れるか売れないかの話に繋がりますが、『ジェイド』の監督はウィリアム・フリードキンです。映画好きならご存知、『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』の監督です。マイケルからしたらどこの馬の骨とも分からん(失礼)無名監督の映画よりフリードキン監督の映画を選びますよね。 それにマイケル・ビーンはルックスが良いから悪党は似合わないと個人的に思うので、ボールドウィンになって良かったです。ちなみに『ジェイド』は観ましたがつまんなかったです(笑) 本作はミニシアター系ながら大ヒットしたのに対して、『ジェイド』はヒットが見込めないと判断され日本では劇場公開されずにビデオスルー。何がどうなるのかは作ってみないと分からないところがあるので、映画作りは本当に大変だと思いますね。 採点は初見時に確かに衝撃を感じたし楽しめたから、そういう意味で4点です。満点はちょっと上げすぎですね。この手のワンアイデア映画にしてはなかなか良く出来てるとは思いますが、ひとつの重大な問題があるからです。 キントがカイザー・ソゼならば何故あんな回りくどい事をしたのか、という指摘に対して上手く回答する事が出来ないからです(笑)今まで正体を隠し通してきたのだから、今回だって出来れば警察と接触する事は避けたい筈。冒頭でキートンを射殺する場面がありますが、あのまま雲隠れすれば面倒くさい事にならない。わざわざ警察に捕まって釈放を待つ中、限定された空間でクイヤンを相手に作り話を披露するなんて手間をかける意味は実はないのです。 どうしてもふたりの男の密室劇をやりたかったからこうなったのですが、じっくり考えてみるとおかしな事だらけ。それはこの映画を高く評価してる人の殆どが実は分かってます。分かった上で「そんな野暮な事はいいっこなし」と割り切って楽しんでるわけです(笑) ★★★★☆(4点)
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