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 兄貴と会うことは滅多になくなっていたが、いつも事務所で顔を合わせる由子さんから、兄貴のようすは聞いていた。だから、兄貴が好きな研究に没頭し、たまに寝食を忘れるほどだということも知っていた。兄貴は由子さんと充実した生活を送っている。だが、それを知れば知るほど、俺の苦しさは増していく。  兄貴は、知っていただろうか。親父に、男兄弟がいなかった理由を。いや、正確に言えば、親父の弟が若くして亡くなった理由を。いや、知るわけはない。知るのは、あの奥義を受け継いだ俺だけなのだから。  もう一つ、気にかかって仕方がないことがあった。それは、あの蔵の鍵を、俺が持っていないということ。親父はいずれあの鍵を俺に託すと言っていた。しかし、親父は急死した。その後、いくら探しても、親父の持ち物の中から、あの鍵は見つからなかったのだ。
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