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 由子さんは、ある依頼を受けていた。多くの弁護士が腰が引けていた案件だ。世間を騒がせた、中年男による女子小学生殺害事件。その殺人犯側の弁護の依頼を、由子さんは熟考の末受け入れたのだ。それを聞いて俺は耳を疑った。どう見ても勝ち目もなく、世間の顰蹙をかうような依頼を受け入れる。彼女のような優秀な弁護士に、若くしてそんなリスクを負って欲しくはなかったのだ。  だが、俺は、彼女に激しく叱咤された。「彰くんがその程度の弁護士とは思わなかった。弁護士の仕事は何? 勝てそうなケースだけを受け入れてのうのうと自分がいい思いをするためにやっているの?」。由子さんからは想像もつかなかった剣幕に、俺は頬を思いきりひっぱたかれたようなショックを受けた。自分が惨めで不甲斐なかった。俺は、いわば兄貴の代わりのつもりで弁護士を目指したのだ。志がなかったわけではない。でも、それは弁護士という社会的地位を得ることに大きな意味があった。俺は、到底由子さんのような高潔な使命感は持ち合わせていなかった。恥ずかしさに俺は真っ赤になって由子さんに詫び、そして心の中で、できうる限り、由子さんの力になろうと決めたのだ。
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