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 兄貴の声を聞くと、俺は急激に気持ちがほだされて、兄貴に甘えたいような気持ちが湧いてきていた。あれ以来、兄貴と一緒のときは、一種の苦痛を感じるようになっていたのに、ずっと兄貴と離れ、気持ちも距離をとっていたために、突如起こった感情だった。 「兄貴、今度二人きりで飲まないか?」  気がつくと俺は言っていた。兄貴は昔と変わらぬ調子で少し皮肉るように、でも実はとても優しく、「なんだ、デートのお誘いか」と笑った。俺は堪らなくなった。兄貴に会いたい。抑えられない感情だった。 「そうだよ、さっそく……明日の晩は空いてるんだ。良かったらどう?」  考えてみると、俺は大人になってから、兄貴と二人で飲んだことなんてなかった。いや、二人で顔を合わせるのもまれになっていた。  昔の俺なら、俺の今やっていること、感じていること、困ったり悩んだりしていること、それらを全部打ち明けては、兄貴の言葉を待っていた。それができなくなって久しかったが、あの頃の気持ちがふいによみがえってきたんだ。考えてみると、なかなか息をつけない仕事の中で、俺は思っていた以上に疲れていたのかもしれない。それに、本来ならこの仕事は兄貴がやるべきだったんだ、という気持ちが今でも心のどこかにあった。
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