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「もし」
彼女は話しはじめた。
「このことで所長やみんな、彰ちゃんにも迷惑をかけることになったらと思うと、それが気がかり。現にこうして彰ちゃんにはボディーガードのようなことをお願いしているし」
「それは全然平気なんですよ」
「ありがとう。でも、私が気がかりなのはそこなのよ。事務所にまで何か不利益になることがあったら、と思うと」
「それは、皆しかたないことだと思ってるはずですよ」
「そうよね、私が逆の立場だったら、全然気にはしないと思うの。でも自分が当事者になると」
気にしないで、と言っても彼女は気にするだろう。そういう人だ。
「でも、どうしても、弁護士としての信念は持っていたいの」
やはり、そこはきっぱりとした口調で由子は言いきる。
「でも、言いにくいんですけど、あの男は有罪だと由子さんも思ってるんじゃないですか」
由子さんはしばし沈黙した。
「その可能性は高いわね」
「それなのになぜ?」
「司法を守りたいのよ」
由子さんの声は小さいがはっきりしている。
「どんな凶悪犯でも、弁護を受ける権利はある。そうでないと司法制度は崩壊してしまうわ」
「……由子さん」
おそるおそる俺は言った。
「由子さんのその信念は、どこから来るものなんですか」
由子さんは顔を上げて俺を見た。思いのほか憂鬱そうな表情だった。
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