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そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、兄貴の生活にも変化が現れた。
恋人ができたのだ。
そのことを知ったのは、ある台風の日。最寄り駅に着くころ、雨脚が強くなった。駅前には雨除けをしながら、車での迎えを待つ人たちが群がっていた。当てのない俺は、しばらく待ったがやむ気配もないので、どこかで時間をつぶそうと、駅構内のカフェに向かった。が、店内はすでに満席だった。諦めて出ようとしたとき、背後から声がした。
「彰!」
振り返った。兄貴が笑顔で手を振っている。テーブル席の向かいが空いているに違いない。俺は走り寄った。そして唖然とした。
「こんにちは。彰くん?」
空いていると思っていた席には、見知らぬ女の人が座っていた。特徴のあるブレザーの制服、でも、兄貴の高校のものではない。
「あ、こんにちは」
俺はどぎまぎしてあいさつを返した。彼女の顔から目が離せなかった。雨のため少し濡れた黒いセミロングの髪。白い肌。通った鼻筋。目は、緊張してまともに見られなかった。でも、聡明そうで大人びている。
「岡本由子さん」
兄貴は紹介して、そして少しはにかんだ。
「俺の、カノジョ」
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