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マンションの前、風が緩やかに吹いている。 1ヶ月前に咲いた桜は、すっかり散ってしまっていた。 「楽しかったですよ。それに、嫌なら断ります。プライベートはお世辞言わない主義なので」 酔ってふらつく係長は、少し微笑む。 「……ありがとう。久々に俺も楽しかった」 プライベートではお世辞を言わないという言葉を間に受けるとしたら、本音という事になる。 「また会社で、ですね」 次会うのは、ゴールデンウィークが終わった明けの会社。 なんだか、少しもやっとした。 「ああ。ちゃんと休まず来いよ」 「はい、お休みなさい」 そう言うと係長は、帰っていく。 と思って歩き出したところで係長は止まって、戻ってきた。 「どうしたんですか?」 戻ってきた係長に、思わず聞く。 「連絡先、教えてくれ」 「連絡先、ですか?」 「プライベートの連絡先は知らないだろ。連絡したい時にできないのは、困る」 たしかにプライベートの連絡先は知らない。 そういえば、朝も連絡先を知らなくて少し不便だった。
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