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恐る恐る横を通り過ぎようとした。
顔がはっきりとしていく。それが伊藤係長だと言うことに気がつくまで、しばらくの時間を要した。
「……伊藤係長」
思わず声が出てしまった。
だってまさか伊藤係長だなんて思わないもん。
あの状況でビンタされてるのが伊藤係長だって予想できる人は、多分この世にいない。
声を出してしまった事で、私だと気が付いた伊藤係長は、頬を押さえたままで驚きの表情を浮かべていた。
見れば見るほど伊藤係長だ。
普段きっちり整っている髪の毛もボサボサで、顔も疲れている。
まあビンタされたばっかりだから、爽やかな訳ないけど。
「小嶋……」
伊藤係長の慌てふためいた様子は、初めて見た。
名前を呼ばれた反動で、思わず走り出してしまった。
伊藤係長の前を通り過ぎて、家へと走る。
「おい、小嶋待て!」
と後ろから声が聞こえてきたけれど、止まる余裕もなく、そのまま走り続ける。
追いかけてきたらヤバいなと思って振り返るけれど、伊藤係長の姿はなかった。
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