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ふっと笑う友哉さん。その笑顔が、ドラマに出てくる主人公みたいだ。 「ありがとう。そんな真っ直ぐ言われると、さすがに照れるな」 「やっぱり照れてるじゃないですか」 「さっきは照れてない。今照れたんだ」 「何ですか、今照れたって」 「うるさいぞ」 ふたりとも食べ終わって、店を出ることにする。 約束通り、わたしが奢った。やっぱり割り勘よりは、場所によって奢ったら奢られたりの方が、気楽でいい。 けれど一杯600円というのは安すぎる。今時、もっと取ってもいいような気がする。 出しているお金の額でいえば、比べ物にならないけれど、そこは友哉さんに少し甘えてしまおう。 家に向かって歩き出す。 月が見えた。満月とはいかない、少し欠けた月。 明日は晴れそうでよかった。 「……俺も菜奈といると、楽しい」 「えっ?」 「だから、菜奈といると楽しいって言ったんだよ」 暗闇の中、街灯に照らされた係長の顔が見えた。 ほんのり赤くなっているような気がする。また、照れてる。
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