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普段からお世話になっている事務長に褒められるのは嬉しい。
けれど、その分プレッシャーがじわじわと迫ってくる感覚がある。
「……ただ、私が娘さんの好みに合うかどうかは分かりません」
「それは勿論だ。何も付き合ってくれとか、結婚してくれと言っているわけではない。私の役目は紹介することだからね。合わずに、一度の食事で終わるなら、それはそれで仕方ない事だよ」
そこまで言われてしまうと、断る理由が思いつかない。
好きな人がいますと言いたい気持ちはあるけれど、事務長の気持ちを無下にする事はできなかった。
「そう仰っていただけるのなら、是非宜しくお願い致します」
同じように、目を細めて笑う事務長には、優しさが溢れていた。
「ありがとう。悪いね、無理言って」
「無理なんかじゃありません。娘さんと食事できる機会なんて、この先考えてもありませんから」
船田杏奈とふたりで食事できる。そう考えれば、世の男性、独身既婚問わず全員が羨ましがるに違いない。
けど、どこか不安な気持ちが拭えなかった。
頭には、菜奈がいる。それが原因に違いない。
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